※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=樋口郁夫、撮影=保高幸子)
全日本大学グレコローマン選手権最終日は、日体大が4階級を制覇したが、大学対抗得点は昨年に続いて2位。4階級とも拓大との直接対戦に勝ったものの、自分たちが決勝に進むということは、拓大選手に敗者復活戦の道をつくってやることを意味し、拓大の“足を引っ張る”ことができなかった。
■初戦で後輩のかたきを取って波に乗る…71kg級・高橋昭五 昨年のJOC杯王者に続き、大学王者に輝いた高橋昭五(日体大)
初戦で、1年生ながら目覚ましい活躍をしている藤波と闘う組み合わせ。藤波はグレコローマンも強く、6月の新人選手権では高橋の後輩を破って優勝している。しかし、「緊張はなかった。後輩のかたきをとってやる」という強気の気持ちだったそうで、築き上げた地位は譲らないという姿勢は十分。
注目選手との初戦激突と言えば、昨年のJOC杯では前年の世界カデット選手権で優勝していたアーセン佐々木と当たる組み合せだった。神様が試練を与えているのか? この指摘には、苦笑いしながら、「優勝するためには、だれが相手でも勝たないとなりません。いつ当たっても勝つだけです」とサラリ言ってのけた。
先月末の和歌山国体(66kg級)では世界選手権代表の泉武志(一宮グループ)に敗れたが、4-4の内容差での惜敗。「互角近くに闘えた。リオデジャネイロ・オリンピック出場のチャンスはある。12月の全日本選手権にかけます」と、この優勝をステップにさらなる飛躍を目指す。 世界選手権代表を破った屋比久翔平(日体大)
80kg級に出場したJOC杯ジュニア74kg級王者の屋比久翔平は、和歌山国体で75kg級学生王者を破って優勝する殊勲に続き、今回は世界選手権80kg級代表を破っての優勝。75kg級のオリンピック代表争いのトップ集団に躍り出たと言っていい結果を続けた。
しかし表情は今ひとつ。「団体優勝できなくて悔しい」という思いのほか、「動けず、調子は悪かった。調整ミスだと思います」と、満足いく内容を残せなかったからのようだ。それでも、本来より上の階級、しかも世界選手権代表を破っての優勝に収穫がないはずはない。「いなしたり、パワーを受け止めることができてよかった」と振り返り、今後のオリンピック代表争いに役立てられそう。
周囲の期待は十分に感じている。特に故郷の沖縄県からは、同県初のオリンピック選手との期待がある。「全日本選手権では、まだ結果を残せていない。しっかり練習し、レベルアップしていきたい」と、約2ヶ月後の勝負へ向かう。
■昨年の学生王者より進歩を実感…98kg級・奈良勇太 優勝にもかかわらず、浮かぬ表情の奈良勇太(日体大)
昨年のこの大会と今年の全日本学生選手権で負けていた志喜屋正明(国士舘大)へのリベンジを掲げていたが、志喜屋が初戦で敗れ、対戦が実現しなかった状態での優勝ということも、喜びが今ひとつの理由のようだ。それは目標の高さを意味するわけで、視線は上を向いている。
昨年の1年生学生王者は「運がよかっただけ。みんなが自分のことを知らないから技がかかっただけです。たなぼたの優勝でした」と言う。同じ学生のタイトルでも、今回は前回より形ができている優勝という感触があり、「もっとしっかりした形をつくり上げていきたい」と言う。
ふだんは、今年の世界選手権代表の米平安寛(三恵海運)と練習することが多い。「歯が立たないです。その上には斎川(哲克)先輩がいます。そのあたりを基準に考えて練習しないと、東京オリンピックは無理でしょう」と話し、大学王者におごることなく上を目指す姿勢を示した。