※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=樋口郁夫、撮影=保高幸子)
全日本大学グレコローマンの第1日は、昨年4階級を制して大学対抗得点でも優勝した拓大が3階級を制し、3位入賞も1人の好成績。2位に21点の大差をつけて2年連続11度目の優勝を近づけた。2012年に、拓大が最終日(当時は3階級実施)に18点差をはね返して優勝した例はあるものの、71kg級に国体王者、80kg級に世界選手権代表を擁する今年の拓大の布陣からして、優勝は九割方手にしている状況と言っていいだろう。
優勝3選手の勝利直後の表情は三者三様だった。75kg級を制した永井凌太は「ヤッター!」と声をあげ、全身で喜びを表した。85kg級優勝の岡嶋勇也は「うれしい。でも、当然だろうな…」といった表情。130kg級の園田新は「こんな勝ち方では駄目だ」とばかりに、敗者のような悔しそうな表情を浮かべた。
■昨年の学生二冠王者を撃破…75kg級・永井凌太 首投げで4点を取った永井凌太
試合は第1ピリオドの終盤に投げ技が見事に決まり、この4点を守り切った展開。「拓大を教わったことを忠実に試合で出すことができました」と振り返ったが、投げた直後に返され、約20秒間押さえ込まれ、フォール負けのピンチを迎えていた。苦しい体勢だったが、チェアマンがレフェリーに対して「肩甲骨(けんこうこつ)を見ろ」と言っていた声が聞こえ、「肩甲骨をマットにつけなければいいんだ」と思って耐えていたという。
見方によっては両肩がマットについていたようなシーンもあったが、自分の感覚では「ブリッジを続けていました。肩は浮いていました」と言う。「3階級優勝の最初を飾れてよかった」と言う。
本格的なレスリング活動は今年限りで、卒業後は普通の社会人の道を歩むという。「全日本選手権が最後の大会になります。頑張ります」と気合を入れた。 2年連続優勝の岡嶋勇也
岡嶋は2年連続優勝で、今年の学生二冠制覇と強さを見せた。しかし、「(団体優勝すれば)いい形で後輩にバトンを渡せるので、よかったと思います」と、永井ほどの喜びの表情はなし。喜ばなかった理由を問われると、「う~ん…。特に理由はないですけど…。3年生の時も勝っていますから」と苦笑い。ディフェンディング・チャンピオンの自信や「勝って当然」の気持ちが、平静につながったようだ。
決勝の相手の与那覇竜太(専大)は、中学王者を経て高校時代に四冠王を獲得するなどスター街道を歩んでいた選手。1学年上の岡嶋は、1階級下だったが全国での実績はなく、雲泥の差の高校時代だった。
それが昨年の大会で与那覇を破って優勝し、今年の対戦でも6-0の快勝。「ここまで力を伸ばせたのはうれしいです。3年生の時から85kg級に先輩がいなくなり、自分がやらなければならない、という気持ちが実力を伸ばしてくれました」と、自覚が実力アップの要因だったと振り返る。
勝つために一番力を入れたのは、6分間攻め続ける体力をつけること。「下がったら駄目なルール。攻め続けることを意識して練習し、闘いました」と言う
来春の卒業後もレスリングを続けたい気持ち。そうした環境を求めており、「できるチャンスをいただけるのなら、東京オリンピックを目指して頑張りたいです」と希望を話した。
■「自分の駄目なところばかり出た」…130kg級・園田新 苦しみながらも2連覇の篠田新
試合中、マットの隙間に足をはさんで左足首を痛め、アイシングをして試合を振り返る表情は敗者と見間違うような表情。「自分の駄目なところばかり出た。左脚を出さないことが課題でやっていたのに、疲れてくると出ていた。(得意な)右脚を出す試合にもっていかなければならなかった。相手が外国人ということで、プレッシャーがあったのかもしれない」と振り返った。
また、自分がばてていることを「相手に感じ取られていた」そうで、「全日本チャンピオンとして(弱みを見せることは)恥ずかしいことです」と反省の言葉が続いた。
しかし、日本にいながらにして外国選手と闘える環境は「ありがたいことです」と言う。「山梨学院大の先生は、ボクが世界で勝てるように外国選手と闘う機会をつくってくれているのかもしれません。彼がいるおかげで、学生の大会を見くびることがない。こういう状況にいることを感謝したい」と振り返った。
国内大会での優勝で喜ぶ立場でないことは確か。130kgに満たない体重を増やすことを含め、外国選手を照準とした闘いは始まったばかり。