※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=樋口郁夫) 復帰戦で優勝の浜口京子(ジャパンビバレッジ)
結果は2試合に勝っての優勝。多少の硬さもあってか、思うようにポイントは取れなかったものの、マットに根が生えているかのような強じんな足腰は健在。勝負どころを固い守りでしのぎ切り、昨年9月末のアジア大会(韓国)以来の復帰戦を飾った。
■「レスリングの神様に会いに来ました。私をすべて知っている神様」
浜口は「この大会のことだけを考えて来た。今はとても楽になったという気持ち。次のことを考えるより、おいしいものを食べたいとかに気持ちがいっています」と、12月の全日本選手権への出場と来年のリオデジャネイロ・オリンピックへの挑戦は明言しなかった。「一歩を踏み出したかな、という気持ち」と、“可能性がある”程度の表現にとどめ、「これからしっかり考えます」と、慎重な発言に終始した。
しかし、闘いに人生をかけてきた選手の本能が、熱く燃え始めたことは確かだ。「決勝の試合の前、マットのそばで『闘いたい』という素直な気持ちになった」という言葉は、眠っていた闘争心が目覚めた事実にほかなるまい。 馬場菜津美(自衛隊)の終盤の猛攻をしのいで優勝の浜口京子(ジャパンビバレッジ)
■不安と緊張のあまり、一睡もできずに臨んだ大会
この大会に出ようと決めた要因はいくつかあるが、一番大きなきっかけは、この階級の全日本チャンピオンの鈴木博恵選手(クリナップ)が、けがのため世界選手権(米国)出場を断念したことだ。自分がリオデジャネイロに行く可能性が広がったからではない。マットの上ではライバルだが、マットを下りれば自分を目標にして頑張って来た後輩。一緒に食事に行ったこともある。
「(けがの後)話はしてはいないけど、けがで試合に出られないことほど辛いことはない。博恵ちゃんは今、本当に辛いと思う。その中で私ができることは、自分が今できることを、精いっぱいやることだと思った」。
その思いをこめての復帰決意だった。「すごく追い込んで練習してきた。辛かったし、1年ぶりということで不安も緊張もあった。体重の増量も必要だった」。6月に盲腸の手術をしたこともあり、一時は体重が70kgを切ったという。体を戻すとともに、気持ちも盛り上げなければならない苦しさは想像以上。 初戦の齋藤未来(KING'S)戦は一時1-2とされたが、2点を取って逆転
■スタートするか、浜口の“リオデジャネイロ・ロード”
どんな辛い思いをしても、レスリングが好きだからマットから離れられない。試合後に着たトレーナーには、「Wrestling is my life」との文字があり、レスリングから離れられないことを強調する浜口が、そこにいた。
父・アニマル浜口さんは「決勝の相手は、引き込んで足払いを狙うモンゴルのブルマー・オチルバト(昨年のアジア大会3位)みたいな選手だった。相手の得意技を封じて、片足タックルを決めたのは、とてもよかった」と、あたかもオリンピックのアジア予選を意識したかのような発言。
全日本選手権への出場は明言していないが、試合後の2人の言葉から、浜口の“リオデジャネイロ・ロード”を感じた人は少なくなかったに違いない。
最後は母・初枝さんも加わっての「レスリングが大好きだ」の10連発! 12月末の代々木競技場第2体育館、3月のカザフスタン・アスタナ(アジア予選)、そしてリオデジャネイロで、このシーンが再現されるのだろうか。
![]() 決勝で決め手となったのは、片足タックルならの流れで奪ったテークダウン |
![]() 親子3人での「レスリングが大好きだ」10連発! |