※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子) 75kg級として最高のスタートを切った屋比久翔平(沖縄・日体大)
■学生二冠王者同士の対戦、ラスト10秒で決着
完全アウエーの準決勝だった。地元出身の阪部と対峙すると、会場は一気に盛り上がった。もちろん、阪部の応援に、だ。
屋比久は昨年の71kg級学生二冠王者であるので、学生二冠王者同士の対戦。75kg級の真の王者を決めるような一戦だった。屋比久は「阪部さんとの試合は初めて。練習ではやられることが多かったので、試合ではどうかな、と思う部分はありました。僕はあまり緊張するタイプではなく、どんどん前に出ることができた。減量もなく、計量間際までガンガン練習できたので、それなりに自信はあった」と、75kg級の王者に思いっ切りぶつかっていった。
阪部と闘う屋比久の姿を見て、「あいつ、体がでかくなった」という声も聞こえてくるほど立派になった体で試合を展開した。第2ピリオド、屋比久はスタンドから投げて阪部をマットにたたきつけ2点。「興奮していて、4点だと思った」と、セコンドについた父親でもある保監督にチャレンジを出すように要求した。
判定は覆らず、阪部に1点が追加された。この時点で残り時間は約1分で、スコアは3-5。屋比久は「相手はばてていたし、2点差は1度のバックポイントで追いつけるので、まだ大丈夫だと思った」とあきらめなかった。 阪部戦のラスト10秒、テークダウンを奪って逆転勝ち
■「75kg級になって『弱くなった』と言われることは絶対に嫌だった」
どうしても勝ちたい相手が阪部だった。8月の全日本学生選手権は、世界ジュニア選手権(ブラジル)の帰国直後という状況を考慮して80kg級に出場。見事に優勝したが、一部からは「阪部から逃げた」という声もあがった。71kg級では学生王者や全日本選手権2位と結果が出ていたことから、「75kg級になって『弱くなった』と言われることは絶対に嫌だった」と、この大会での出来を非常に気にしていた。大きなガッツポーズが飛び出したのは、その解放感からだったのかもしれない。
保監督は久しぶりにセコンドで息子の雄姿を見守った。保監督自身も国体で優勝5回の猛者だったが、「私の初優勝は大学4年だった。翔平が3年で優勝したので抜かれてしまった。悔しいですね」と苦笑い。一方、屋比久に父親超えについて言及すると「父からはいつも『オレは国体を5回優勝した』と言われて育ったので…」と一言。父親の背中はまだまだ大きいようだ。
20歳(来年1月で21歳)でオリンピック階級で幸先のいいスタート切った屋比久だが、早すぎる活躍とは思っていない。屋比久は「本当に強い選手は20歳のころから全日本でトップ争いをしている。自分はまだジュニアでしか国際大会に行けていないので、まだまだ頑張らないといけない」と、今が一番大事な時期だと自覚している。
20歳最後の試合は12月の全日本選手権。今年の総決算となる大会で“脱ジュニア”を果たせるか。