※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=樋口郁夫) 約540選手が5面マットで熱戦を繰り広げた自称「日本一の草大会」
参加選手数は北海道、香川、佐賀などからも含めて63クラブ540選手。全国大会の入賞者が91選手参加するなど、質量ともに充実した大会で、初参加したクラブの代表からは「港区の大会というから、こじんまりした大会だと思っていました。全然違いました」という声が挙がった。本多代表は「日本一の草大会を目指します」と言うが、規模としては草大会をはるかに超えたグレードの高い大会と言ってもいい。
■強い選手も、これから強くなる選手も、分け隔てなく次につなげられる大会
2008年の第1回大会は80人程度の参加で、7年で立派な大会に成長した。本多代表は「『初心者から全国王者まで一堂に集まって闘う大会』『強い選手も、これから強くなる選手も、分け隔てなく次につなげられる大会』が開催のコンセプトでした。その目標がようやく形になってきました」と振り返る。
そのコンセプトのひとつとして実施しているのが、参加全選手にTシャツ、賞状、メダルを授与していること。顧問の元有名プロレスラー、ザ・デストロイヤー氏(前港区在住)が「負けた選手に劣等感を持って帰ってほしくない」との考えから、大会当初から実施している。3位に入れなかった選手のメダルの色は金でも銀でも銅でもなく、賞状に「○位」とは入っていないが、参加全選手の健闘を称えている。 大会を主催し運営したフィギュア・フォー・クラブ
■全国王者に「負け」を経験させるためのトーナメントも実施
全国大会の入賞者に「負け」を経験させるトーナメントも実施しているのも特徴だ。一般のトーナメント全試合が終わったあと、全国入賞者、および希望者を集めて行う「天下一武道会」のトーナメントで、階級は重量級と軽量級の2部門(2学年単位で実施するので、計6部門)。ルールは先取点を取った選手が勝ち。したがって試合時間は短く、3面マットを使って約30分で終わった。
全国王者になったはいいが、「いい気になってしまい、努力する姿勢がなくなった」という声を聞くこともあった本多代表が、「負けを経験することで謙虚な気持ちになり、初心に戻れる。負けて岐路につくことも必要」として、この部門をつくった。チャンピオンに「勝たせたままでは帰さない」という制度のある大会は(最大で6選手は負けずに帰るが…)、全国で唯一ではないか。
他クラブとの交流もコンセプトに沿った活動。今年は北海道から旭川レスリング協会ジュニアが参加したが、「フィギュア・フォー・クラブ」の家庭がホームスティで受け入れたことで宿泊代の軽減に協力。東京と北海道の選手が交流する場となった。 通常のトーナメント終了後に行われた天下一武道会
本多代表「親が勝つことに熱くなりすぎていると感じることがあります。チャンピオンを決めるだけの大会ではなく、選手が『これからも練習がんばろう』と思って帰ってくれるような大会を目指したい」という信念は、数々の特徴ある活動につながっている。
■手作りで経費を削減し、選手へ還元する!
全選手にTシャツ、賞状、メダルとなると経費がかさむ。しかし、パンフレットにはいかなる企業の広告もなく、港区も現段階では協賛金といった金銭的な支援は行っていない。「収入は、参加料2500円×約540人分(約135万円)だけです」と本多代表。
この中でどうやって経費をねん出しているのか。大会運営がクラブの父母や近隣の高校レスリング部員の“無料奉仕”で成り立っている大会は普通にあり、この大会でもそれは実践している。この大会はパンフレットの大半が手づくり。同代表がパソコンで全ページをデザイン。それを印刷会社に出しているので、通常よりずっと安く上げているという。
だからといって“お粗末”というものではなく、保存価値十分の内容。言われなければ手作りとは思えないような豪華なパンフレットだ。メダルやTシャツのデザインも“プロ”の手が入っていないので格安に仕上がる。経費節減の工夫をすることで、選手への還元にあてているのが、この大会だ。 パソコン技術を駆使し、格安で製作した豪華パンフレット。
しかし、旧習にとらわれない新鮮なアイディアは、発言をためらわせることのない自由な雰囲気の中から生まれる。会社における上司と部下と“飲みニュケ―ション”は絶滅に近いそうだが、冗談も飛び出る会話の中からの発想こそが、時代にマッチする場合が多い。34歳の本田代表を中心とした若いパワーが、従来にはないユニークな大会をつくり上げたと言えよう。
■港区レスリング協会の設立で、さらなる発展を目指す
3年前まで港区役所に勤務し、クラブ発足から本田代表を助けて来た村本健二コーチ(日本協会・前総務委員長)は、「第1回大会は青山中学の道場で、1面のマットを2つに分けて開催したんですよ。港(みなと)区の大会だから、“みんなと”やり、“みんながトクする”大会にしよう、として、ここまできました」と振り返る。
大会の翌日に合同練習というパターンは、最初は「疲れているのに、なぜ?」と思ったそうだが、意外に評判がよかったという。「(本多代表の)若さゆえの発想でしょう。彼のパワーが、フィギュア・フォー・クラブとこの大会をここまで押し上げました」と言う。
自身は港区レスリング協会の設立へ向けて動くと言う。行政としては、一クラブが相手より、協会が相手の方が動きやすいそうだ。現在でも、パンフレットに区長のあいさつがあるが、協会設立でさらに太いパイプができれば、もっと大きな大会になっていくだろう。注目される港区大会の今後だ。
![]() 各マットで熱戦が展開された |
![]() 表彰式はマットサイドで実施 |
![]() オリンピック(ロサンゼルス、ソウル)銀メダリストの太田章氏(オータ・キッズ代表=向こう側) |
![]() シドニー・オリンピック銀メダリスト、永田克彦氏(レッスルウィン代表) |
![]() 手作りのパンフレットを手にする本多尚基代表(右)と村本健二コーチ |
![]() 大会後のフィギュア・フォー・クラブのミーティング。翌日は朝9時から合同練習だ |