※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=池田安佑美、撮影=矢吹建夫) 優勝を決め、応援席に手を振る伊調馨(ALSOK)
決勝戦でU-23欧州選手権優勝のペトラマーリト・オッリ(フィンランド)を鮮やかな両足タックルなどで下した伊調だったが、優勝を決めても表情一つ変えずに勝ち名乗りを受けた。10度目の世界一、100連勝という記録。そして何よりも、メダルを獲得したことで、来年のリオデジャネイロ・オリンピックの代表をほぼ手中に収める価値ある勝利だった。
記録や権利がかかった大切な大会だったが、伊調にとっては、どれも“無関心”なことばかり。無失点の快勝にも関わらず、「今日は全体的によくなかった。練習通りにやろうと思っていたけど、思っていた動きが出せなかった。自己採点は25点です」と悔しそうに振り返った。
「勝ちたいとか、負けたらどうしよう、という気持ちを持っていない。やりたいレスリングを出すことが目標」と、今大会は自分が目指す組み手からタックルへの一連の攻撃を最大の目標としていた。タックルは要所で決めており、その目標はかなっているように見えたが、本人としては「あれは、無意識に出てしまった技。考えて出したものではなかったので」と評価対象にならなかったようだ。
何のためにレスリングをしているのか―。闘う理由を、伊調は「レスリングを追求すること」と話す。試合が終わると、課題を見つけてすぐに練習で取り組んできた。今回は、欧州のトルコやフィンランドとの対戦があった。
「アジアやアメリカ、カナダの選手はよく対戦するが、ヨーロッパの選手はやる機会がない。特にフィンランドの選手は、くぐりもうまく、腕も取られてしまった」と、試合直後に課題を見つけ出していた。「(欧州のレスリングを知ることで)レスリングの幅をもっと広げられるんだなって、今日発見しました。うれしかったことです」とようやく笑顔を見せた。
「反省点を見つけられなかったら、自分のレスリング人生は終わる」とキッパリ言い放った伊調。次の目標を聞くと、「今日の試合を反省し、けがを直して、今後1年間の計画をしっかりたてたい」。オリンピックを入れて合計13度目の世界女王に、来年のオリンピックへ死角はなさそうだ。