※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子) 優勝を決め、応援団にあいさつする埼玉栄チーム
ユースオリンピック76kg級金メダリストの山崎弥十朗主将を84kg級に擁し、マスコミにも常に注目される状況。昨年優勝の花咲徳栄を県予選で下しての出場に、「優勝校に勝ったのだから優勝できるよね」という周囲の声もあり、野口監督の緊張度は高まるばかりだったという。
生徒達は冷静だった。山崎主将を中心に自ら進んで練習する生徒ばかり。「今年のメンバーは意識が高く、無理に練習をやらせることは全くなかった。全国優勝を目標として、やり方が分からないときだけ聞いてくる」(野口監督)と、自主性があるメンバーが一丸となってマットで躍動した。
■「オレのやり方では、全国制覇は無理なのかな」と悩んだ野口監督
全国中学選手権(全中)王者の肩書を持つ60kg級の吉村拓海と山崎主将、さらに66kg級の尾形颯がチームの3本柱。この3人は5戦5勝と圧倒的な強さを見せた。 優勝決定直後の埼玉栄。左端が野口篤史監督
野口監督は「八木は準決勝で右肩をけがしてしまい。大ピンチだった。もともと気弱なところがあるが、最近はたくましくなって、弱気になりそうな時に思い切ってタックルに入ってくれた。120パーセントの力を出してくれた」と褒めちぎる快勝。
応援団が優勝を確信したのは、84kg級に登場するのが高校界無敵の山崎主将だからだ。山崎主将はタックルやローリングを次々と決めて2分58秒でテクニカルフォール勝ち。この勝利で埼玉栄の優勝が正式に決まった。
優勝した瞬間、マットにうずくまった野口監督。大東大を卒業後、埼玉栄に赴任と同時にレスリング部の監督に就任。今年で26年目と大ベテランの監督となった。だが、なかなか優勝できない現実に「オレのやり方では、全国制覇は無理なのかなと思いました。監督を変える必要があるんじゃないかな」と思い悩むこともあったと言う。
■全中王者4人がいながら優勝できなかった2年前 優勝を決めた山崎弥十朗主将
その時、1年生だった山崎や吉村は優勝を逃して大泣き。監督、生徒ともに長崎インターハイでの失敗を胸に、この2年間練習を積んできた。「正直、長崎の時の方が、戦力は上だった。今年は選手が一致団結し、各自が成長してくれた」。
50kg級の宮原は素人から始めたのに、立派に“先鋒”をやり遂げた。66kg級の尾形も「中学の時は自転車で転んで試合を欠場するような選手だった」(野口監督)のに、今大会、全勝という大健闘。
姉妹校でもある花咲徳栄にレスリング部ができてから、2校で切磋琢磨してきた。「『花咲徳栄の分まで頑張って来ます』と伝え、花咲徳栄の生徒や父兄さんからは、『全国で頑張ってきて』と背中を押されていました。その約束が果たせてうれしいです」。
初日に花咲徳栄から返還された優勝旗と優勝楯。それを埼玉県の埼玉栄が持ち帰る―。日本一強い県、埼玉県が実証されたインターハイだった。