※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子) イラン人が運営する2クラブ。左端が「市川コシティクラブ」のジャボ・エスファンジャーニ代表、右端が「イラン・レスリングクラブ」のシャハラム・ガレダギ代表
レスリング大国に学ぼうと、これまで日本のナショナルチームをはじめとして多くの選手がイランに遠征し、“最強のレスリング”を学んだ。男子で24年ぶりのオリンピック金メダリストに輝いた米満達弘(自衛隊)も、イラン遠征の経験がある。
■道場経営は金銭的に厳しいが、「愛があるから大丈夫」
どうやったらイラン人のように強くなれるのか? 答えの一つは、イラン人に学ぶことかもしれない。全国少年少女選手権大会には、イラン人が経営するクラブが2チーム参加した。ジャボ・エスファンジャーニ代表率いる「市川コシティクラブ」と、シャハラム・ガレダギ代表が率いる「イラン・レスリングクラブ」だ。
ともに息子が出場し、エスファンジャーニ代表の四男の吉田アラシが小学生6年生46kg級で優勝。3年連続5度目の優勝を決めた。「優勝はうれしい。次は中学の大会で優勝したい」と目を輝かせれば、ガレダギ代表の長男、ガレダギ敬一は、小学生4年生30kg級で優勝。4連覇を飾り、「試合内容は満足している。6連覇できると思う」とうれしそうに話した。
市川コシティクラブは、2012年4月に設立し、全国大会は今回が4回目。イランクラブは2013年11月設立で、今回が2回目の出場だ。ともに20代で日本に来て仕事に打ち込んだが、国技であるレスリングへの愛情が冷めることはなく、互いに自分の道場を持つところまでこぎつけた。 小学生6年生46kg級で優勝したエスファンジャーニ代表の三男の吉田アラシ(赤)
■市川コシティは市川で唯一のレスリング専門道場、IWCは東京駅から徒歩10分
市川コシティは、市川で唯一のレスリング専門道場。エスファンジャーニ代表の子供も含めてメンバーは21人。直美夫人は「中には、『ぜひともイラン人に習わせたい』と、幕張の方から通ってくる生徒さんもいます」と話す。基本的には近所の日本人の子供たちでにぎわっている。
今でこそ20人を超える大所帯になってきたが、「一時は全然人数が集まらなかった。やはりイラン人だから門をたたきにくいのかな、と思った。イラン人とはいっても、少し昔の日本の頑固おやじみたいな性格なんです。日本語もベラベラですから、ぜひ気軽に来てほしい」と呼びかけた。
一方、創立2年目のイランクラブの道場は、東京駅から徒歩10分の八丁堀にあり、アクセス抜群の立地にある。だが、敬美夫人によると「メンバーは自分の子供2名を含む6人だけ」と嘆き節。「スパーリングパートナーが欲しいので、もう少しメンバーが増えるといいのですが」と切実に話した。 小学生4年生30kg級で優勝したガレダギ代表の長男のガレダギ敬一
■イランの指導方針は「キッズは厳しくしない」
お互いに創部数年で全国チャンピオンを輩出した。その背景に“厳しすぎる練習”があるのでないかと懸念される。だが、エスファンジャーニ代表は首を横に振る。
「金メダルは1個ずつでしたが、もっとやれば、もっと取れます。けれど、キッズ時代は厳しすぎてもいけない。イランでは、キッズ時代は身体能力を育て、その次にタックルを教えます。カデットやジュニアまでは厳しくないので、試合では負けます。けれども、シニアになったら絶対に負けてはいけない。練習も1日8時間やります」とイラン方式を熱弁。将来性を見越した指導方法に自信を持つ。
イランのレスリングを誇りに持ち、日本で指導者になった2人だが、日本のレスリングにも敬意を払っている。「日本の軽量級のレベルはすごい。イランと日本、お互いのいいところを取って指導してしきたい」と口をそろえた両代表。日本の中の“イラン教室”は、まだ始まったばかりだ。
![]() 「市川コシティクラブ」のジャボ・エスファンジャーニ代表 |
![]() 「イラン・レスリングクラブ」のシャハラム・ガレダギ代表 |