※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫) V6と世界選手権出場を決めた金久保武大(ALSOK)
「冬のハンガリー・グランプリと、5月のアジア選手権(カタール)では結果を出せなかったので、世界選手権では成績を残さないといけないと思っていた。まず代表になれてホッとしています」。アジア選手権の不調を払しょくする優勝だった。
アジア大会代表と世界選手権代表の対決は、金久保が「手の内を知っている者同士。ワンアクションで勝負が決まる」と言うように、接近した内容だったが、金久保が得意の俵返しで攻撃を仕掛ける際、清水が脇を締めて防御したのが反則行為とみなされ、コーションによって金久保に2点が入り、その得点で勝敗が決まった。
この冬、グレコローマンはオリンピック前年にも関わらず、大幅なルール変更のニュースが流れた。コーションの際のパーテール・ポジションの選択が廃止され、スタンド戦で試合が続くルールに変わると言われ、実際にそのルールでのテスト大会も行われた。
最終的に、5月末に行われた世界レスリング連盟(UWW)の審判会議で、パーテール・ポジションの選択は継続された。情報が錯綜し、選手にとっては練習メニューに困る日々だったが、金久保にとっては得意とするパーテール・ポジションからの攻撃が残ったことは追い風だった。 決勝で清水博之(自衛隊)と闘う金久保
7月には29歳となるが、大学入学後にレスリングを始めたので、今年がレスリング生活10度目の春となる。柔道のバックボーンがあったとはいえ、わずか10年のキャリアで全日本選抜選手権を6度優勝しているのは、ものすごい出世頭だ。
「この大会は縁起がいい。出場した大会は全部勝っている。調子がいい時も悪い時も、この大会でもう一度(気分や気運を)上げてくれる大事な大会」。全日本選手権は昨年やっと初優勝できたのだから、この大会の相性のよさはずば抜けている。
今年は、さらにうれしいニュースがある。「子供が生まれます(大会後の26日に長女誕生)。今回の試合で力になりました。この勢いで、世界選手権でオリンピック出場を決めます」と、家族パワーで世界選手権の活躍を誓った。