※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫) 優勝を決め、一瞬涙ぐんだ川井梨紗子(至学館大)
川井は2012年に17歳で世界女子選手権(カナダ)51kg級に出場。学生王者の父と世界選手権出場の母の間に生まれる血筋のよさもあって、早くから若手のホープとして期待されていた。55kg級へ上げたあと、女子のオリンピック階級が6階級となった段階で58kg級を主戦場としていた。
だが、日本の絶対的なエース、伊調馨(ALSOK)も63kg級から階級変更し、相変わらずの女王ぶりを見せつけていた。2004年アテネ・オリンピックから正式種目になった女子は、過去3大会で7個の金メダル、計11個のメダルを獲得しているが、出場した選手はわずかに5人。吉田沙保里(ALSOK)や伊調などが“長期政権”を築いている。
2階級増えて6階級になったことで、多くの選手がチャンスとばかりに絶対女王がいない階級に変更する傾向が見られた。それでも、川井は「馨さんに勝てるのは私しかいない」と女王に挑み続けていた。
昨年の全日本選手権で伊調に敗れた時、至学館大の栄和人監督から「63kg級でオリンピックを狙ったらどうだ」と提案されたという。川井は「最初は『嫌です』と言いましたけど、家族やいろんな人にたくさん相談して、泣いて…。最終的に申し込むギリギリまで悩んだ」と振り返る。 決勝で渡利璃穏(アイシン・エィ・ダブリュ)と闘う川井
「2階級上の選手はやはり重たかった」と苦笑したが、潜在能力は若手でトップクラス。得意の組み手で上の階級の選手たちを翻ろうし、63kg級の有力選手を次々と倒した。全日本1位の選手を破り、アジア大会金メダルの選手をも倒し、内容でも十分にアピールはできた結果だった。
試合後は、「(世界選手権に)選ばれたらいいな。アピールはできたと思う。今は階級を変えてよかったと思っている」と笑顔。代表に選出されれば3年ぶり2度目の世界選手権になる。「51kg級の時は後悔しか残らなかった。今年、もし出たら優勝してオリンピックを決めたい」と、その目にはもう階級への迷いはなくなっていた。