※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=渋谷淳、撮影=矢吹建夫) 世界選手権代表権を手にした田野倉翔太(クリナップ)
準決勝で倉本を撃破した田野倉は、決勝で日体大の後輩となる太田と対決。投げ技を決めて先制し、後半は太田の猛攻をしのぎ切って勝利。直後にプレーオフを残しているというのに、息を切らせながらインタビュースペースに現れ、関係者に(プレーオフで勝ってからだと)教えられて、慌てて試合の準備に入るという一幕も。
さらに、男子グレコローマンの優秀選手に選ばれたことで表彰式に臨まねばならず、試合に向けて集中できないのでは、との懸念も感じられる慌しさだった。しかし、そんなことで田野倉の勢いが止まることはなかった。
プレーオフは、倉本よりも試合間隔が短く、体力回復の面では不利な立場だったものの、それをものともしない堂々の戦いぶりだった。「これで負けたら終わりだと思っていた。レスリング人生に悔いを残したくなかった」と言う田野倉は、ライバルをまったく寄せつけず、わずか70秒の速攻でテクニカルフォール勝ちを決めた。 プレーオフは相手につけいるすきを与えない速攻勝利
練習に本格復帰できたのは3月末のこと。ここからは小柄な体を生かした下からの攻めと、けんか四つに構えて相手の前の手を取っての攻撃に磨きをかけた。けがの間に体づくりに励んだことも功を奏し、完全復活とも言える優勝を遂げた。
世界選手権には2013年に55kg級で出場したが、上位進出はならなかった。2年前に悔しい思いをしている田野倉は「ラスベガスでは必ずメダルを獲って、日本で最初にオリンピック出場を決めます」と必勝宣言。逆転で世界選手権のキップをつかんだ勢いそのままに、リオデジャネイロ・オリンピックまで一気に突っ走る。