2015.06.17

【特集】「試合が楽しみです」…緊張しない強心臓の持ち主、男子フリースタイル86kg級・赤熊猶弥(自衛隊)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文・練習撮影=保高幸子)

 男子フリースタイル86kg級(2013年までは84kg級)は、2012年ロンドン・オリンピックの前から松本真也(警視庁)と松本篤史(ALSOK)が頂点争いを展開し、切磋琢磨してきた。しかし、ともにオリンピックへの出場はかなわなかった。

 昨年の世界選手権(ウズベキスタン)とアジア大会(韓国)の日本代表も松本真と松本篤が分け合ったが、現在は松本真にかわって赤熊猶弥(自衛隊)が松本篤と頂点を争う様相を呈してきている。オリンピックの予選がかかった明治杯全日本選抜選手権で、赤熊は初優勝、そして世界選手権出場権の獲得を狙っている。

■大学1年生の時、卒業後は自衛隊でレスリングを考えていた

 赤熊は、福岡・東鷹高時代はインターハイ3位が最高だった。オリンピックを意識したのは、拓大に進むことを決めた高校3年生の時。2010年に拓大に進学し、西口茂樹部長や高谷惣亮選手(ALSOK)からの技術伝承で成長。2013年には学生二冠王者(全日本学生選手権、全日本大学選手権)に輝くまでになった。

 大学1年生の時、すでに自衛隊を目指し、同時に「リオデジャネイロ・オリンピックに出るぞ」と思い描いた。「大学生の時に西口先生から『お前はオリンピックに行ける。行こう』と言われ、夢を信じることができました」-。

 拓大時代を「スタミナがなかった」と振り返る赤熊だが、「大学4年生だった2013年に全日本選抜選手権で2位に入賞し、初めて決勝のマットに立ってから変わったと思います」と少しずつ意識が高まった。今年は自衛隊に入って2年目。最初の1年間はスタミナをつけるため走り込みやパワーマックスで体力強化をはかり、大学時代より少しずつ数値が向上してきた。

 また、日本代表として闘うべく、日本トップのベテラン選手たちに囲まれてすごす自衛隊や全日本合宿の環境から多くを吸収。精神面での飛躍もとげてきた。

■ロシアとモンゴルの国際大会で連続メダル獲得

 昨年6月の全日本選抜選手権は3位に終わったが、準決勝で前年にテクニカルフォールで敗れた松本篤に10-11まで迫ることができた。12月の全日本選手権では準決勝まで全てテクニカルフォールかフォールで勝ち上がり、他を寄せつけない強さ。決勝では松本篤に2−9で敗れたものの、準決勝でアジア大会代表だった松本真にテクニカルフォール勝ち。2013年全日本選抜選手権と同大会で2連勝をマークし、立場を完全に逆転させた。

 松本篤が連続優勝した今年3月のロシアとモンゴルでの国際大会では、その影に隠れてしまったが、赤熊も2大会連続で3位に入賞。存在感を見せた。もちろん、「自信がつきましたが、まだまだ(松本)篤史先輩に追いつくには、いろいろ足りないです」と言う。

 迎え撃つ王者の松本篤は、昨年の世界選手権からかなり調子が上がってきていて、簡単に越えられるとは思っていない。だが今月11日に行われた全日本選抜選手権に向けた強化委員会の記者会見で、田南部力コーチ(警視庁)は「86kg級は松本篤と赤熊の2強」と言い切った。赤熊の実力が松本篤を脅かすところまで上がっているのは間違いないだろう。

■入隊前の青写真、実現するか

 まだ足りないものがあるとはいえ、はっきりと「優勝する自信はあります」と言う赤熊。緊張しない本番に強いタイプで、「試合が楽しみです」と言うその顔には、冬の遠征で「ここまでやってきた練習は間違っていないと分かった」と感じた自信がみなぎっていた。

 「自衛隊に入って1年目か2年目に日本一になろう」との青写真を描いていたという。入隊2年目の今年こそ、チャンピオンとなり、オリンピック予選となる世界選手権にぜひとも出場したいところだ。

 得意のタックルと強いメンタルを武器に、勝つイメージを強く持ってマットに上がる。