※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子) 姉妹優勝を遂げた姉・五十嵐未帆(左)と妹・彩季
五十嵐は「このような賞をもらうなんて、考えられなかったです。びっくりしました」と初々しい笑顔。ニューヒロインが誕生した瞬間だった。同じ愛知の星城高の妹の彩季も、カデット49kg級に出場して初優勝。五十嵐は「姉妹で優勝するのは初めてでうれしい」と喜びをかみしめた。
■世界カデット・チャンピオン同士の闘いを制する
五十嵐はこの4月に大学生になったばかりで、昨年までカデットの部で活躍していた。46kg級で優勝し、7月の世界カデット選手権(スロバキア)に出場して初優勝を遂げ、年末の全日本選手権ではベスト4に進出した成長株だ。
今年2月にはクリッパン女子国際大会(スウェーデン)にも出場し、元世界チャンピオンでロンドン・オリンピック銀メダルのマリア・スタドニク(アゼルバイジャン)と対戦するなど海外での経験も積んでいる。
同階級で最大のライバルとなったのは、一つ年下の高校生、加賀田だ。加賀田も五十嵐と同じように、昨年までカデットの部に出場して49kg級で優勝。世界カデット選手権でも力を発揮して3連覇を達成していた。両者譲らぬ活躍ぶりだったが、階級が分かれていたからありえた。ジュニアでは同じ48kg級に出場し、今大会で初の直接対決が実現した。
昨年の実績こそ五分だが、中学時代を含めた成績を比べると、史上初の中学六冠を制覇した加賀田の方が上だ。五十嵐は「私は、全中(全国中学生選手権)は表彰台にも上がったことがない」と振り返った。だが、オリンピックへのあこがれが日に日に強まるばかり。「強くなりたい」と、高校進学と同時に至学館高の門をたたき、今年から至学館大に進学した。 昨年7月の世界カデット選手権で優勝、表彰台での五十嵐(撮影=吉村祥子監督)
一進一退の攻防だったが、要所で五十嵐のタックルが決まって6-0。「本能だけで闘っていたので、あまり覚えていない」と、がむしゃらに闘っていたようだが、「自分が強くなっているのが分かる。至学館に来てよかった」と、自信の成長を感じていた。
■今夏は姉妹で世界へ飛躍か
決勝で負けられない理由がもう一つあった。決勝の試合進行は、カデットの部のあとにジュニアの部が行われた。「姉妹で決勝に行くのは初めてで、しかも妹が先に優勝を決めてしまった。妹が勝った瞬間は、正直、これで自分が負けたらやばいと、焦りをものすごく感じました」と、姉としてのプライドも勝利につながったようだ。
めでたく姉妹優勝を決め、姉が世界ジュニア選手権、妹が世界カデット選手権の代表に選ばれる可能性が濃厚となった。五十嵐は「今年の世界ジュニア選手権はブラジルで行われるので、(来年がリオオリンピックですし)出場してみたかったんです」と、ブラジルが開催地となったこともモチベーションになったようだ。だが、
世界ジュニア選手権出場で満足するつもりはない。「6月の明治杯(全日本選抜選手権)でオリンピックに少しでも近づけるようにしたい」と、来年のオリンピックも本気で狙うことも宣言した。
一方、妹の彩季は、世界カデット選手権について、「(選ばれれば)初めての海外遠征となります。緊張しますが、少しでもいい内容で入賞ができるようにしたい」と抱負。これまで、数々の姉妹が活躍してきた日本女子レスリング。五十嵐姉妹が、“坂本姉妹””伊調姉妹”に続く、姉妹伝説を作り上げるだろうか―。