※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子) スランプと階級アップの壁を乗り越えて2年連続優勝の成國大志(三重・いなべ総合学園)
決勝では、磯川利音(京都・網野)を“ローリング地獄”でわずか44秒でテクニカルフォール勝ち。記録だけ見れば、「キッズ時代からのエリートが順当勝ちした」と見えるかもしれない。
だが、今回の優勝は成國にとって簡単ではなかった。成國は「去年はけがをして、いろんなことがあって…」と昨年を振り返ると、こみあげてくるものがあったのだろう、言葉に詰まって目頭を押さえた。
「すべて、1年前のこの大会から始まったんです」と、負のスパイラルは奇しくも昨年の全国高校選抜大会がきっかけだった。2013年に1年生でインターハイ50kg級を制したものの、成長期で身長・体重とも増え、昨年のこの大会は10kg以上の減量をして、ふらふらになりながらの優勝だった。内容が伴わず、唇をかみしめながら優勝インタビューに応じる姿が印象的だった。 決勝で快勝し、応援席へ勝利をアピール
輝かしい過去を持つ成國は、どちらかと言えば地方のローカル大会で負けることがあっても、主要大会に照準を合わせるタイプ。“本番に強い成国”が代名詞だったが、昨シーズンは、レスリング人生初の挫折。「初めてレスリングを辞めようと思った時もあった」と辛い時期を振り返った。
何が何でも今大会で復活する! 強い信念を持って臨んだ今大会は勝ちにこだわった。「タックルがへたくそ」と自称する成國は、タックルを捨て、がぶって落としてバックに回るスタイルで全試合通した。準々決勝では、テクニカルポイントなしのコーションの取り合いの末、最後の相手側のチャレンジ失敗で得た1点を加えて3-2で逃げ切る場面もあったが、「どんな泥仕合でも、1点差でもいいから、とにかく勝ちにこだわった。今回優勝してから、また試合のスタイルを作り上げていきたい」と割り切って試合に臨んでいた。
成長期に苦しめられた体重も落ち着いてきたようで、冬場は60kg級の体を満足に作りこめたようだ。エリート選手ともてはやされた成國が初めての挫折を乗り越えて優勝した。高校最後のシーズンは、始まったばかり。今度は試合内容で“魅せ”られるか。