※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子) 13年ぶりの出場を果たした八戸工大一チーム。後列右端が大舘信也監督
チームの指揮を執ったのは、元自衛隊でアジア選手権2位などの実績を持つ男子フリースタイル60kg級のトップ選手だった大館信也監督。3年前に自衛隊を離れて帰郷。母校の八戸工大一に赴任した。
同校は2012年ロンドン・オリンピック金メダルの小原日登美選手や男子フリースタイル70kg級の全日本王者の小島豪臣選手らを輩出した高校で有名。だが、3年前に大館監督が赴任した時は、「人数も7人程度で、自分の母校として寂しく思った」と、自分たちがいた時の活気な印象はなかった。生徒たちも、ばく然とした目標しかなく、チームの中での闘いを制したら満足してしまう状態だった。
顧問の大久保啓光先生と二人三脚で立て直し決意し、部員集めから着手した。「地道に一般生徒に声をかけ、柔道経験者の自宅に行って勧誘したりしました」と根気強く続け、現在の部員は新2、3年生で16名に増えた。 セコンドからゲキを飛ばす大館監督
大館監督は「マットステージで闘うって、普通の高校生にとってはすごいことなんですよ。観客や天井が近くて、セコンドの声が普段より全然聞こえない。すごい世界で闘っている感覚になるんです。僕だってそうでした」と転機を振り返る。
今回の団体戦では、東北の強豪校、秋田商(秋田)が初戦で姿を消すなど波乱があった。「生徒たちは、強豪の秋田商が敗れて、あっけにとられて動揺していました。けれど、これが全国なんですよね。自分たちの試合以外でも、全国に来る価値はあります。100本のスパーリングより1本の試合です。経験がすべて。全国で3試合闘ったことに加えて、全国の試合を見られたことが、今の生徒たちにとって一番の糧です」。 3回戦敗退後、選手にアドバイスする大館監督
今回は久々の全国選抜で2試合を勝ち抜いてベスト16とインターハイの成績を上回り、満足する部分もあったと思う。だが、大館監督は「欲を言うなら、もう一つ勝って準々決勝で花咲徳栄(埼玉)と対戦したかったですね」と話す。昨年のインターハイ団体優勝を遂げたチームと対戦して、生徒の経験値を上げたかったことはもちろんだが、監督自身の都合もある。「花咲徳栄を率いる高坂先生は、僕と同い年の34歳。高坂先生に挑みたかったんです」と苦笑いする。
ここ数年、霞ヶ浦と全国2強と言われた花咲徳栄(埼玉)と接戦勝負ができる日も、そう遠くないかもしれない。昨年の長崎国体では世界カデット選手権にも出場した55kg級の永田丈治が準優勝。全国で活躍する選手も出てきた。「永田は、今回の個人戦は第1シードで優勝するチャンスがある。僕がずっと2番だったから、生徒たちには1番になってもらいたい」と大館監督。八戸工大一の再興なるか-。