※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
文田健一郎(日体大)
山梨・韮崎工高時代に全国高校生グレコローマン選手権と国体グレコローマンでともに3連覇している。“グレコローマンの申し子”の実力アップは、アジア選手権2位で全日本王者に肉薄している太田忍(日体大)を、早くも“追われる側”へ回したと言えるインパクト。6月の全日本選抜選手権では、“太田越え”のみならず一気に世界選手権代表権獲得を目指す。
■ロンドン銅メダリストに無心の勝利
「ハンガリー・グランプリ」では、初戦でロンドン銅メダリストであり、2013年世界選手権でも55kg級で3位に入賞したペテル・モドス(ハンガリー)にフォール勝ち。「大会前の合宿でも練習していまして、やりたくない、と思う選手の一人でした。組み合わせが分かった時は『エー!』と思いました」と言う。
それでも、初戦で強豪と激突ということが、当たって砕けろというか、かえって緊張感を取り払ってくれた。「緊張もなく闘えました。それがよかったですね」と無心の勝利だったことを強調した。
しかし、4回戦ではアジア大会(韓国)3位のアルマト・ケビスパエフ(カザフスタン)にフォール負け。大会前の合宿で、「強い選手は自分の構えができている。自分は相手に合わせてしまい、後手に回ってしまうことが多かった」との反省があり、修正していたが、その成果が出ずに「相手に合わせてしまいました」という試合だった。 昨年の全日本学生選手権で太田忍(日体大)に挑んだ文田(赤)だが、完敗だった。
■ウエートトレーニングで実力アップ、59kg級の体力へ
日体大に進んで1年が経とうとしている時期での飛躍だが、シニアの世界では壁を感じる1年だった。昨年は、全日本選抜選手権の初戦で前年の国体55kg級王者の尾形翼(ALSOK)に敗れ、全日本学生選手権でも決勝で太田忍にテクニカルフォール負け。「最初は(シニアのレベルに)のまれてしまい、思い切りできないことが多かったですね」と振り返る。
スタミナやパワーを含めた体力の違いは大きかった。高校時代は55kg級の選手ながら60kg級に出場して結果を出したが、55kg級の体ではシニアの59kg級では通じなかった。それでも、JOC杯ジュニアオリンピックや東日本学生春季新人選手権では優勝と、同世代間での闘いでは頭ひとつ抜けている実力を発揮して結果を出した。「同じ世代の選手には負けない、というプライドは持ち続けていました」。
そのベースと意地の上に、高校時代はほとんどやっていなかったウエートトレーニングによる体力アップが加わり、少しずつだが実力をつけてきた。最初にその成果が出たのは10月の長崎国体。前年の55kg級全日本王者の田野倉翔太(クリナップ)を4-2で撃破。初めてシニアの強豪選手を破った。「練習では勝てない相手でして、正直、勝てるとは思っていなかったんです」とのことだが、この勝利は自信になった。
一方、約2ヶ月後の全日本選手権では2回戦で見事にリベンジされた。「トップ選手の意地というのは違うんだな、と感じました。(国体のあとの)練習ではボコボコにされ、グチャグチャにされることが多かったです」と厳しさを痛感した。「ハンガリー・グランプリ」での好成績は、いろんなことを経験した1年間を終えての結果だった。
■ジュニア最後の今年は、世界ジュニア王者が目標 全日本合宿で練習する文田
リフト技の得意な文田にとって、パーテールポジションの選択廃止が見込まれる新ルールは大きなハンディとなるが、「課題だったスタンドをしっかりやれ、という神様から与えられた試練だと思っています」と受け止めている。胴タックルや腕とり、がぶりなどに重点的に取り組み、自分の力でパーテールポジションをつくって道を切り開くしかない。
今シーズンのスタートは4月25~26日のJOC杯ジュニアオリンピック(神奈川・横浜文化体育館)。ジュニアでは最後の年となるだけに、優勝はもちろん、その後に続く世界ジュニア選手権(8月、ブラジル)での優勝が目標だ。高校時代の同期生の小柳和也(現山梨学院大)が2013年の世界カデット選手権(セルビア)で優勝して“世界一”を先に取られている。「追いつきたいです」と力をこめた。