※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
攻撃精神で優勝を勝ち取った日本チーム
発案者は木名瀬重夫監督(日本協会専任コーチ)。オリンピック選手のいない若いチームなので、「どうしても外国チームに臆する面が出てくる。その思いを払しょくするため、猪木さんのこの言葉がぴったりだと思いました」と説明する。
積極果敢な攻撃は、「うまくいけば自信になる。うまくいかなくとも、課題が見つかる。行けば分かる、行かなければ分からないんです。こんなぴったりな言葉はないと思いました」。
■日本の攻撃レスリングがロシアの野望を粉砕
実際には、日本選手はだれが相手でも臆することなく闘った。決勝のロシア戦は55、58kg級で世界選手権2位の選手と闘う組み合せ。格からすれば相手の方が上だが、55kg級の菅原ひかり(至学館大)も58kg級の川井梨紗子(至学館大)も攻撃精神に満ちた闘いを展開。腰が引けていたのは相手の方で、「JAPAN」のネームバリューのすごさを実感させる現実がそこにあった。 オリンピアンにして世界2位のバリア・コブロワを破った川井梨紗子(至学館大)
ロシアは日本選手のタックルを警戒するあまり、受け身のレスリングになっていたのかもしれない。木名瀬監督は「逆に考えるなら、ビデオを見て対策を練る、というのは、受け身になってしまう危険性がある」と警鐘をならす。「攻めるためのビデオ研究」ということに徹しないと、強い相手には実力を出し切れないことになりかねない。
日本選手もロシア選手を研究していたが、「攻めるための研究」に徹し、それを実行できたことは間違いない。予選から「迷わずに行った」攻撃レスリングが、無言のパワーとなって決勝で生き、不利が予想された闘いを勝つことができたのではないか。
■意義のある若手チームでの優勝 チーム一丸となっての優勝は、代表選手に何をもたらすか
もちろん、まだパワーのある外国選手の組み手に戸惑い、攻撃の糸口を見つけられないケースもあり、課題は少なくない。「動き続けた選手はポイントにつなげられた。一回失敗しても、二回、三回と振りほどくしつこさが必要。パワーがあるだけに、崩れた時は逆にチャンスになる」と、ここでも受け身のレスリングではなく、闘う(動く)ことを望んだ。
オリンピック選手のいないメンバー、しかも63kg級を負傷で欠いて7人での闘いを余儀なくされたチームで、昨年のこの大会と世界選手権の国別対抗得点の双方で2位だった地元チームを破った意義は大きい。オリンピック選手のいないメンバーで優勝したのは初めて。若手選手の底上げは間違いなく行われており、今回参加しなかった全日本チャンピオンのが城へ大きく近づいたはずだ。
「選手は、『行けば分かるよ』ではなく、『行かなくとも分かる』ようになったんじゃないでしょうか。絶対に自信になっていますよ」と木名瀬監督。今回の代表選手が世界1・2位などの選手へ挑む6月の全日本選抜選手権が、待ち遠しい。
■成富利弘コーチ(東京・安部学院高)の話「1選手をけがで欠いて7選手、全日本チャンピオンが実質2人というメンバーで優勝できたことは大きい。個人の能力もさることながら、チーム力が必要だということを伝え続けていた。それをしっかり実践してくれた。若手を引っ張った鈴木博恵主将と工藤佳代子副主将に感謝したい。決勝の前に『木名瀬監督を胴上げしてくれ』と伝え、選手もその気になってくれた。この経験を自信とし、今後につなげてほしい」
■笹山秀雄コーチ(自衛隊)の話「選手が優勝の目標に向かって一丸となってくれた。団結の勝利だと思う。木名瀬監督の思いが選手に伝わったと思う。伊藤友莉香(自衛隊)は合宿の時からけがしていたが、闘うまでに回復しなかった。申し訳ない。今後は少しでもけがをしている選手は参加させないことに徹したい」