※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
村田夏南子(日大)
2011年全日本選手権の決勝は大激戦。当時の2分3ピリオド制で、0-2(2-2B,0-1)のスコアで敗れたが、第1、2ピリオドとも内容はまったくの互角。勝てばロンドン・オリンピック代表が内定する吉田に「決勝でああいう試合をして情けなくて言葉がないですね」と言わせたのだから、掛け値なしの接戦。
新ルールとなった2013年6月の全日本選抜選手権決勝での対戦では、吉田がセーブ・オリンピックのロビー活動で体調が万全ではなかったものの、終盤までリードを奪う展開(最後に逆転されて5-6で黒星)。2016年リオデジャネイロ・オリンピックへ向け、吉田の最大のライバルになるという予感を感じさせる内容で、村田の成長と打倒吉田にかける意気込みに期待したファン・関係者も少なくなかった。
■階級区分変更によって、打倒・吉田沙保里の目標は封印
しかし、リオデジャネイロへの本格的な選考レースが始まった現在、吉田の前に村田はいない。昨年12月の全日本選手権は吉田の4階級上(オリンピック階級なら2階級上)の63kg級に出場。この階級でオリンピックを目指すことになったからだ。 昨年1月のヤリギン国際大会(ロシア)55kg級で優勝した村田。このあと、階級の選択を迫られた
63kg級としては今回が初めての全日本レベルの大会だった。「今の実力が分かりました。そのあと、大きな選手との練習を増やすなどしています」とも話し、実際に闘ってみての課題が見つかった。決勝のマットに上がれなかった落ち込みはなく、気持ちは上向いているようだ。
55kg級で闘っていた選手が63kg級で闘うために必要なものとしては、まずパワーアップが挙げられよう。だが、「体がいきなり大きくなるものでもないし、大きくしても動けなくなったら意味がない」として、無理な増量をすることなく臨んだ。その方針は今後も変わらず、自然の流れで63kg級で闘える体をつくり、オリンピックへの最後の関門に挑む予定だ。
■「夢をかなえたい」-、そのために選んだ63kg級 2013年全日本選抜選手権で、ラスト数秒まで吉田からリードを奪っていた村田(青)
58kg級には“絶対女王”の伊調馨(ALSOK)がいる、という理由であることは明白だ。「レスリングに無差別級があれば、伊調が優勝するのでは」という声すらあるほど伊調の強さはずば抜けており、こう考えるのはもっともだが、体格からして63kg級の挑戦は無謀として、58kg級を勧める声は多かった。
「伊調から逃げるのか。挑むべきではないのか」という辛らつな声も耳に入った。しかし「自分は自分。何を言われても構わない」と、周囲の声にとらわれることなく自分自身で決断した。「夢をかなえたい。そのためには…」。人生を後悔しないためには、自分で人生を決めること。夢は周囲が決めることではない。村田は「63kg級でオリンピックへ出場する」という夢を定め、その道を歩み始めた。
■今月は世界3位の選手と連日のスパーリング
時間は限られている。今年9月の世界選手権(米国)で日本代表が3位以内に入れば、実質的にその段階でオリンピック代表に内定する。3位を逃せば、12月の全日本選手権から再び選考レースが始まるので、まだ11ヶ月の時間があるが、最短で考えれば6月の全日本選抜選手権までが勝負の時。時間は5ヶ月だ。果たして、63kg級で日本一になれる実力が身につくだろうか。 全日本合宿で世界3位のアナスタシャ・グリゴリェワ(ラトビア)と練習する村田
世界3位の選手との度重なる練習は、実力養成は言うまでもなく、世界の63kg級のレベルを知ることもできた。「日本選手に勝たないと意味ないんですけどね」と苦笑いするが、2月以降は日大の男子選手と練習する中でパワーアップに挑み、並行して体幹の強化を中心とした体力づくりにも力を入れて全日本選抜選手権に挑む予定だ。
吉田を追い詰めたレスリング・センスと格闘能力の持ち主。63kg級での闘いに必要な体力が身につけば、培ってきた技術が生き、一気に飛躍できるだろう。
63kg級は、アジア大会優勝の渡利璃穏(アイシン・エィ・ダブリュ)とアジア選手権優勝の伊藤友莉香で争われると思われた。だが、全日本選抜選手権の決勝のマットで手が上がるのは、その2人のどちらでもない可能性が出てきた。