2015.01.15

【特集】冬は国内でじっくり強化! 筋力アップに挑む…男子フリースタイル70kg級・木下貴輪(山梨学院大)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

 世界レスリング連盟(UWW)の女子レスリング普及キャンペーンに名付けられたのが名称は「スーパー8」。8人の大使が普及キャンペーンに従事する。昨年度、高校レスリング界でずば抜けた成績を残し、大学へ進んだ選手が8人いた。“日本版スーパー8”とでも言うべき選手たちで、その成績は常に周囲からの注目が注がれる。

 その一人、木下貴輪(鹿児島・鹿屋中央高~山梨学院大)は、全日本レベルでは目を出すことができなかったが、アジア・ジュニア選手権(74kg級=モンゴル)2位、東日本学生秋季新人選手権(70kg級)優勝とまずまずの成長を見せ、2014年を終えた。

■秋季新人選手権で優勝も、すぐに全日本トップレベルの壁に直面

 木下は大学最初の年を「前半は思っていた以上に勝負ができた。後半になると、研究されてしまったのか、闘いづらくなっていきました」と振り返る。

 高校時代は66kg級でやってきたが、進学を機に階級を上げることは決めていた。大学の壁のみならず、階級アップの壁もあったのだから、簡単に勝ち抜けるとは思っていなかっただろう。しかし、予想以上のスタートを切れた。

 最初の大会のJOC杯ジュニアは、70kg級という階級がないため、74kg級での出場となったが、上級生や「スーパー8」の一人の奥井眞生(国士舘大=74kg級インターハイ王者)らを破るなどして2位へ。従来から8kgも重い階級での躍進は「自信になった」。

 6月のアジア・ジュニア選手権2位を経て、8月の全日本学生選手権は70kg級で2位へ。順調な成長を見せたが、「3大会とも決勝はテクニカルフォール負けで、納得できない部分もあったんです」と、心の中では壁も感じていたようだ。その不安は、11月の全日本大学選手権で5位という形になって表れた。

 続く新人選手権で優勝して気持ちを持ち直すことができたが、全日本選手権では3回戦(2試合目)で横山太(岡山・おかやま山陽高教)に0-8の完敗(ベスト8)。大学へ進んでから社会人選手と闘ったのは初めてのこと。「力では負けていないと思うけど、組み手とかで負け、相手の脚がすごく遠く感じた」と、キャリアを積んだ選手のうまさを痛感し、全日本トップレベルの壁を破ることなく最初のシーズンを終えた形だ。

■技術向上とともに筋力アップが重要課題

 70kg級でこれだけの差を感じたのだから、いずれ闘うことになる74kg級で通用するためには、このままではいけない。「ジュニアの74kg級であっても、相手が大きく見えて、力負けもする」というから、技術のみならず、体力的にも「もう少し時間が必要という感じです。今年6月の全日本選抜選手権から74kg級にしようかどうか、迷っている状況です」と言う。

 74kg級には世界2位の高谷惣亮(ALSOK)がおり、9月の世界選手権(米国)でメダルを取り、規定によってリオデジャネイロ・オリンピックの日本代表を実質的に決める可能性もある。全日本選抜選手権で70kg級に出場するということは、リオデジャネイロ大会の選考レースにまったくかかわることなく、今回のオリンピックへの道を終わってしまう可能性を意味する。

 「リオデジャネイロをあきらめ、東京オリンピックを目指してじっくり鍛える?」という問いに、「チャンスがある以上は、あきらめたくないですね」と、トップ選手なら当然の心境を吐露。迷うところだが、通常体重は73kgで、70kg級としても筋力不足は明らか。どちらであっても筋力アップは重要課題と言えるだろう。

■「強い選手は攻撃が単調にならず、動きがずっと続いていく」

 全日本選手権でベスト8なら、従来なら全日本合宿には呼んでもらえない成績。しかし、2020年東京オリンピックへ向けてのターゲット選手に選ばれたことで、12日からの今年最初の全日本合宿にその姿があった。「期待されていることはうれしいです。この冬は遠征の予定がないので、3回の全日本合宿で技術をしっかり学ぶとともに、体をつくりたいです」。

 「スーパー8」の何人かは全日本の遠征や学生選抜の遠征に抜てきされているが、木下は日本に腰を落ち着けて階級アップの壁に挑む。「強い選手は攻撃が単調にならず、組み手から動きがずっと続いていく。そうしたことを学びたい」と、日本にいても強化は十分にできると感じている。

 スタイルとしては少数派の左構え(左脚が前に出る)。そのため“けんか四つ”になる場合が圧倒的に多い。「けんか四つはやりづらい」と言う右構えの選手が多いので、この面では有利。このあたりを武器に、74kg級でリオデジャネイロを目指してみるのも一案ではないか。

 まず4月末のJOC杯(74kg級)で1年間の成果を試し、74kg級での闘いの感触を再度経験したいところ。大学2年目での飛躍が期待される。