※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
高橋昭五(日体大)
高橋はJOC杯優勝を機に一気に伸びた若手選手。全日本選手権初出場でのメダル獲得の喜びは大きいと思われるが、「(アジア大会2位の)松本隆太郎先輩がいなかった(負傷欠場)ことが大きかったと思う」と状況を冷静に分析。「本当の3位ではない」という意識の方が強いようで、「まだまだです」と気を引き締めた。
■「高校から始めた」という理由をつけて妥協したくない」ときっぱり
だが、内容と結果を見ると成長の跡が十分にうかがえる。初戦は全日本大学グレコローマン選手権王者の堀後雄太(拓大)に5-3で勝利。堀後には8月の全日本学生選手権で敗れており、見事にリベンジを果たした。2回戦は、世界学生選手権(ハンガリー)3位で大学の先輩の中村尚弥(日体大)に3-2で白星。中村も6月の全日本選抜選手権で負けた相手であり、2人にリベンジする好調な滑り出し。 初出場の全日本選手権で3位に入賞(右が高橋)
だが、上を目指している選手は「優勝」以外の成績では満足しない(優勝しても、内容次第で満足しない選手も少なくないが…)。「泉先輩に勝ちたかった」と話し、3位では満足できないという気持ちがありあり。
勝った試合が“快勝”と言える内容でなかったことも心残り。日体大のグレコローマンで上下の階級で期待されている太田忍(59kg級)と屋比久翔平(71kg級)に比べると、その部分で見劣りしてしまうことも満足できない要因のようだ。
「2人は、学生間では快勝します。でも、ボクは1回戦で負けたり、てこずったり…。差を感じるんです。日体大のグレコローマンの選手なら、他大学の選手には『勝って当たりまえ』でなければ…」。実際には、これまで太田は青山学院大の選手に、屋比久は早大の選手に敗れるなどしており、それを乗り越えて今年度の学生二冠王者に輝いているのだが、高橋の目には2人がずっと「学生無敵」と映っているもよう。 全日本合宿で練習する高橋
高橋はそうした考えを否定する。「闘う以上、『高校から始めたから』という理由をつけて妥協したくない。松本監督(慎吾)や金久保先輩(武大=ALSOK、75kg級)みたいに、大学に進んでから本格的にレスリングをやって世界に出ている選手もいます」-。
■オリンピック・チャンピオン相手に実力アップを目指す
昨年8月には世界ジュニア選手権(クロアチア)に出場。東欧の選手4人と闘い、2勝2敗で10位になっている。「技術がなく、前へ出てスタミナで勝つレスリングしかできないのに、2回も勝てたのは自信になりました」と感じた反面、負けた2試合はともテクニカルフォール負けで、世界の広さにも直面した。
しかし、11月末のシニアでの“国際舞台デビュー”は見事に優勝を飾った。ブラジル・リオデジャネイロで行われた「ブラジルカップ」で3勝を挙げて金メダルを獲得した。グレコローマンの強国は参加していない大会だったが、「どんな大会でも優勝は気持ちいい。周りから『ブラジルの大会で優勝したんだって』と言われれば、悪い気持ちはしませんね」と言う。 ロンドン・オリンピックを制したオミド・ノルージ(イラン)。高橋はどこまで食いつけるか。
それでも、おじけづく雰囲気はどこにもない。「楽しみです。試合を見ているだけでは、本当の強さは分からない。闘うことで強さが分かる。スーリヤン(59kg級優勝=ロンドン・オリンピックを含めて55・59kg級で7度世界一)、ノルージ(66kg級2位=ロンドン・オリンピック60kg級など2度世界一)…。強い選手に積極的にぶつかっていきたい。自分の前に出るレスリングが通用するか試したい」。
世界選手権の時から、「このマットに自分が立っていたら、どう闘うだろうか」などといったイメージトレーニングをしていたそうで、「勝つ選手は、決勝の舞台でも自分のレスリングを貫ける強い心を持っていますね」との感想。世界トップ選手の激闘を生で見たことは、大きな刺激材料となっている。
世界選手権の舞台ではないが、この冬、世界最強のイラン選手へチャレンジする。伸び盛りの20歳は、さらなる進化を遂げることだろう。