※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=保高幸子) 樋口黎(日体大)
「高校生で史上最強の年代」と言われた昨年の高校トップ選手の一人。実績だけなら、高校2年生の時から全日本選手権への出場資格(インターハイ王者など)を満たしていたが、「18歳以上」という年齢制限により、2年生の時のみならず、早生まれのため3年生の昨年も大会には出場できなかった逸材だ。
大阪・吹田市民教室時代は全国少年少女選手権を5度優勝。中学時代にはずば抜けた台頭はなかったが、茨城・霞ヶ浦高校に進学し、2年生の夏以降、負けなしの快進撃。3年生の昨年は高校三冠王者(全国高校選抜大会、インターハイ、国体)へ。JOC杯カデットと団体を含めれば6冠王者となり、期待のスーパールーキーとして日体大に進学した。
■「勝って当然」という期待に対し、力が入りすぎた?
しかし、大学ではとんとん拍子とはいかず、ここまで優勝は新人選手権のみ。今年6月には強化委員会の推薦で初めての全日本レベルの大会(全日本選抜選手権)に出場し、全日本トップを脅かすかと期待されたが、初戦で高橋と対戦し、高橋の意地を破れなかった。シニアの洗礼を受けたというところだ。 6月の全日本選抜選手権で高橋侑希を追い詰めた樋口(撮影=矢吹建夫)
周りからの「勝って当然」という期待に対し、力が入りすぎたことがスランプの一因だったかもしれない。しかし、11月下旬の秋季新人選手権の時は、「階級も一つ上だし、楽しむことだけ考えて闘おう」と思えるようになった。スランプを脱出し、春季(57kg級)・秋季(61kg級)とも新人選手権を優勝でまとめた。
全日本選抜選手権では、高橋に負けはしたが、スコアは8-10と大接戦を演じており、評価は下げていなかった。直接の対戦を経験し、「差はそれほどないと感じた」と言う。高橋が世界選手権で5位に入賞したことは、樋口の実力も世界で通用する可能性があることを意味する。
アジア大会(韓国)は現地に行き、優勝したヨン・ハクジン(北朝鮮)や昨年の55kg級世界チャンピオン、ハッサン・ラヒミ(イラン)のレスリングを間近で見て、自分が代表として闘ったらどうなるか、シミュレーションができた。シニアや学生レベルのタイトルとは無縁だったが、実りあるここまでをおくってきた。
■「世界で一番になりたい気持ちは誰にも負けません」
スーパールーキーとして注目される樋口だが、「自分がどうやったら強くなるか、ということを考えているので、周りのことは気になりません」と平常心を強調。大学では、今まで無とんちゃくだった食事や睡眠にも気を遣うようになった。 全日本選手権の初出場初優勝へ向けて練習する樋口(撮影=保高幸子)
同級は、2012年ロンドン・オリンピック銅メダルの湯元進一(自衛隊)が復帰し、2度目のオリンピック出場を狙っている。練習では、湯元進一の双子の兄の湯元健一コーチに相手をしてもらうこともあるそうだが、樋口が負けてしまうとのこと。それでも、「本番に強いタイプ」と自負しているので気にはならず、いい練習ができている。
層の厚い階級だけに、待ち受ける強豪は高橋、森下、湯元だけではない。全日本大学選手権では中村倫也(専大)に打倒高橋を実現されるなど、多くの強豪が待っている。「今年は(スランプに陥って)いろいろありましたが、全日本選手権で勝てばすべてよしとなる。今年一番の大事な勝負です。勝って、来年の全日本選抜選手権、世界選手権へとつなげたい。日本代表として闘える自信もあります」と準備はできている。
「世界で一番になりたい気持ちは誰にも負けません。2020年東京オリンピックでの金メダルが最終目標です」と樋口。そのためにも、日本で勝たなければ道は開けない。持ち前の勝負強さで、まず目指すは全日本制覇。少し寄り道した樋口だが、白星街道に帰還できるか? 今年の集大成を全日本選手権で魅せる!