※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子) 加賀田葵夏(東京・文化学園大杉並高)
現時点では登坂がリオデジャネイロ・オリンピックに最も近い位置にいるが、女子で最も層が厚い階級であり、登坂の天下がこのまま続く保証はない。
今シーズンのこの階級は、シニア、ジュニア、カデットの3部門のすべてで、世界選手権で優勝している(カデットは49kg級)。シニアは登坂、ジュニアは全日本選抜選手権2位の宮原優(東洋大)。そして、カデットで大会3連覇を飾ったのが加賀田葵夏(東京・文化学園大杉並高)で、将来が楽しみな選手の一人だ。
加賀田は中学時代、3年連続で全国2大会(全国中学生選手権、全国中学選抜大会)を制し、同世代では無敵の強さを誇った。高校2年生になった今年は、4月のジュニアクイーンズカップ・カデット49kg級で優勝し、8月のインターハイ49kg級も制するなど同世代では相変わらずの強さを見せている。
だが、加賀田は「カデットとシニアが同じレベルではないから」と話し、現状の成績に満足する気持ちはない。 今年8月、世界カデット選手権で3連覇を達成した加賀田(撮影=吉村祥子監督)
今回の全日本選手権で、シニアの大会に挑むのは4大会目。過去3大会はいずれも1、2回戦で敗退で、「試合運びが同世代の選手と闘うのと同じようにいかなかった」と反省点を挙げた。加賀田のスタイルは“超攻撃スタイル”で、攻め続けるレスリング。シニアでは攻守のバランスがよい選手が多く、「技をかけたくても、かけられない」と先輩たちのディフェンス能力に屈することが多かった。
「攻めることは楽」と話す加賀田にとって、組み手やディフェンス力の向上はシニアで勝つための重要課題。メダルポテンシャルアスリート育成システム構築事業(MPA)の合宿などで「(組み手のない)飛び込みタックルはよくないと指摘された」そうで、シニアレベルになるための模索を続けている。
シニアで勝ちたいという気持ちは、2020年の東京オリンピックに向けて同世代の選手の活躍が著しいことも後押しになっている。同い年で53kg級のターゲット選手に選ばれた向田真優(JOCエリートアカデミー/東京・安部学院高)が昨年の全日本選手権で51kg級2位となり、今年8月のユース・オリンピック(中国・南京)では金メダルを獲得.同世代、シニア、世界の各舞台で成績を出している。
加賀田もターゲット選手にふさわしい成績を残していると思われるが、現時点では名前はない。「選ばれなかったショックはなかったのですが、同じ48kg級に年下の中学生が入っていて、『負けていられないな』と思いました」と気持ちは引き締まった。
さらに、「ターゲット選手が(9月に)海外合宿へ行くと知った時は、うらやましいと思いました。成績を残してターゲット選手に選ばれたら、チャンスが広がるんじゃないかな」と話し、メンバー入りを熱望した。
■世界チャンピオン登坂絵莉(至学館大)の練習量のすごさ! 全日本選手権での上位入賞を目指して練習する加賀田
時に出げいこにも出かける。「5月に至学館に行きました。練習相手がたくさんいるすごい環境でした」との感想を持ち、世界女王の登坂にスパーリングをお願いするなど充実した練習を積めた。
一番勉強になったのが、間近に見た世界女王の姿。「登坂さんより多くのスパーリングをこなすことを目標にしていたら、登坂さんは1本も抜けず、約20本のスパーリングをこなしていた」と、女王の座におごることなく、必死に練習する姿を見て、その強さの理由が分かった。
その経験を生かし、練習の意識を上げている。「今の環境でこれくらいでいいかな、と思ったらいけない」と、努力する基準を高めに設定して全日本選手権への最終調整を行っている。
「1、2回戦で負けてしまうと11時ごろには試合が終わってしまって、ひまになっちゃいます(笑)。これまでは入賞がなかったので、今大会はメダル争いができるようにしたい」。加賀田の4度目のシニア大会の結果はいかに―。