※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子) 優勝した藤波勇飛(左)と藤田雄大。中央は藤波俊一監督
中学時代は史上4人目の大会3連覇を達成するなど、エリート街道を走ってきた藤波だったが、高校1、2年ではインターハイで勝てなかった。高校三冠王(全国高校選抜大会、インターハイ、国体)は今年初挑戦となった。さすがの藤波も平常心は保てなかった。「ほとんどの大会は緊張しないのですが、今回は高校生最後の大会で締めくくりでした。緊張してしまい、思うように動けませんでした」。
ライバルたちは“打倒藤波”を掲げ、全身全霊をかけてぶつかってきた。「自分自身が緊張しているのもありましたけど、みんな僕のこをと研究しているなというのが分かりました。タックルに入りづらかったし、ローリングで腕を取りに行けなかった」。
準決勝では、JOCエリートアカデミー所属の梅林太朗(東京・帝京)に対し、「差しにいったところで安心してしまった」と、投げ技から一瞬フォールされそうになるなど冷や汗をかく部分もあった。最後の国体はインターハイのような無失点と完璧な内容ではなかったが、目標だった三冠王を獲得し、「よかったです」と笑顔を見せた。
今年は12月の全日本選手権に出場する。高校では無敵の藤波も「全日本レベルだと、まだ力不足だと思うので、強い先輩たちに胸を借りて一つでも勝てれば」と、高校生活最後の大会に向けて目標を掲げた。
■藤田雄大も選抜と国体の2冠王者に
少年フリースタイル55kg級は、3月の全国高校選抜大会55kg級優勝の藤田雄大(三重・いなべ総合学園)が優勝し、春と国体を制した。藤田も高校三冠王の実力は十分にあったが、同じチームで50kg級の全国王者だった成国大志の身長や体重の増加により、8月のインターハイは団体、個人ともに藤田が50kg級に落として参戦した。団体戦、個人戦と2度の計量には耐えられず、個人戦は棄権した。
チーム事情による階級変更だったが、「団体戦でも勝ちたかった」と50kg級に出場した後悔はなかったようだが、その代わり今大会にかける思いは半端ではなかった。準決勝では、インターハイ王者の長谷川敏裕(東京・自由ヶ丘)と激突。長谷川の飛び込みタックルで先制は許したものの、「自分のパワーの方が上だし、自信もあった」と体幹の強さを生かして7-4と逆転。
その勢いでトーナメントを制した。藤田は「インターハイ(の個人戦)に出られなかった分、優勝できてよかったです」と、ホッとした表情を浮かべた。 高校最後の年に四冠王を達成した藤波
今大会、いなべ総合学園は2階級制覇で幕を下ろした。2009年に高橋侑希(現山梨学院大)が1年生でインターハイを制した2009年のインターハイからこの6年間、茨城・霞ヶ浦や埼玉・花咲徳栄に続く活躍を見せた高校の一つだろう。高橋は史上3人目のインターハイ3連覇を達成した。2011年の6月には、今回高校四冠王になった藤波が全国中学生選手権で3連覇を達成し、翌年の2012年からは高校界で活躍した。
昨年からは団体戦にも力を入れて、長崎インターハイでは準優勝。決勝で敗れたものの、優勝した霞ヶ浦より先に王手をかけるなど、王者を十二分に脅かし、存在感は抜群だった。
いなべ総合学園を率いたのは藤波俊一監督。「息子がやっと三冠王になり、藤田も最後優勝できてよかったです」と振り返った。息子の藤波は、来年から親元を離れて関東の大学に進学する。今季は親子二人三脚のラストシーズンでもあった。
「私は今年50歳。ひとつ区切りがつきますね。また来年、1から作り直して、またいい選手を作りたいです」と、藤波監督にとっても節目のシーズンだった。