2014.10.15

【長崎国体・特集】台風で異例の措置、成年フリースタイルはベスト8以上が全員1位

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文・撮影=増渕由気子)

 日本全国に猛威を振るった台風19号は、「長崎がんばらんば国体」にも大きな影響を与えた。国体レスリング競技は10月13~16日の4日間で開催予定だったが、13日に九州に台風が上陸する予報となり、大会前日の12日、日本協会、島原市、長崎県協会が協議し、大会初日の中止を決定した。初日には吉田沙保里選手(ALSOK)のデモストレーションや松永共広・日本協会専任コーチによるキッズレスリング教室なども予定されいたが、これらも中止された。

 大会運営の中枢を担う黒田安秀・県協会理事は「大会の4日前、(国体期間中に)台風が来るかもしれないと分かり、各方面に連絡を取りながら対応を決めた。このように予定が変更になり、非情に残念です」と無念そうな表情を浮かべた。昨年8月にはインターハイを同会場で成功させ、国体では、それ以上に盛大に行うはずだったが、自然の猛威には勝てなかった。

 昨年のインターハイでは、時期が夏場のため台風を想定したスケジュールも用意したが、国体の時期は台風が来る確率が低いため、台風シフトは想定外だったようだ。

 初日の全日程が中止になった経緯はこうだった。「日程を延ばすと宿舎の調整も必要になる。島原市はレスリング競技を行った後、サッカーとバレーボールが控えていて延泊が不可能でした。成年の選手(社会人)は仕事を持っていて、14日までを想定して休暇を取っている。14日に帰宅できる時間に試合を切り上げることを前提に調整しました」(黒田理事)。そのためベスト8までしか試合を行わず、8名全員を1位と認定することに決めた。

 国体は12月の全日本選手権の予選も兼ねており、通常、成年の部の3位入賞者に出場権が与えられる。今回は8名全員に権利が与えられることになった。

 少年の部に出場する高校生は、全都道府県の選手がグレコローマン選手と同日程の遠征になっていたため、試合終了時刻を遅くしても問題なしと判断。14日の一日で決勝まで行うことを決めた。

■安全が最優先! 苦渋の末の決断だった

 成年のベスト8というのは、多くの階級が2回戦まで勝ち抜けば決まる順位。シード選手の場合、初戦の2回戦を勝って大会終了となってしまう。レスリングは、室内競技のため、開始時間などを遅らせるなどして、ほぼ予定通りのスケジュールを消化できなかったのかという声もあがった。

 だが黒田理事は「13日は島原市で開催を予定していた弓道も中止の措置が取られました。中止の一番の理由は、警報が出た段階で島原市の職員が災害対応のシフトに就かなければならないことです。さらに、警報が出ている中、高校生の補助員を安全面の理由で動員できず、大会が成り立たなかったからです。警報が出ているのに高校生を動員し、けがなどしたら大変です」と話し、室内競技の観点で中止したのではないと説明した。

 島原市は山と海に囲まれた高低差がある街。高校生は自宅通勤で、学校に集合してから大型バスで会場入りを予定していたため、警報が出ている中、登下校をさせるわけにはいかなかった。

 「結果的に台風の被害はあまりありませんでしたが、この復興アリーナは海辺に面しているため、13日は一日中、強風で揺れていて、とても競技ができる環境ではありませんでした」と、関係者に理解を求めた。

 選手以上に無念なのは、何年もの月日をかけて準備していた大会の日程変更を余儀なくされてしまった長崎県の関係者だ。黒田理事は「本当に残念ですが、そんな中、選手たちは頑張ると言ってくれた。まだグレコローマンもあるし、選手たちの頑張りに期待したいです」と、最後まで大会運営をまっとうすると前を向いていた。