※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
立命館の栄光を取り戻せるか、水口貴之代表(右端)と選手たち
立命館宇治高は鈴木秀和監督の指導の下、1990年代後半から2000年代前半にかけて、インターハイなどの全国大会で数多くの優勝選手を輩出した強豪高。多くの選手が立命館大へ進み、同大学の西日本学生界での不動の地位樹立に貢献した。
OB・OGでは、男子フリースタイル65kg級の石田智嗣(警視庁)や女子75kg級の鈴木博恵(クリナップ)がリオデジャネイロ・オリンピックを目指しており、全日本トップレベルに成長する選手も育てている。そのベースだったのは鈴木監督が運営していた宇治教室。すなわち、キッズから大学まで一貫強化を実践していたチームだ。
一方、高校の入試に合格するために必要な偏差値は京都府でもトップクラス。勉強のため、放課後の練習は「1時間半以上はやらなかった」との証言もあり、文武両道を貫いてきた。
鈴木監督が定年退職したことで高校のレスリング部は休部状態へ。選手の供給を断たれた立命館大も低迷。往年の強さを知る人にとっては、寂しい現状となっている。
昨春、1997年のインターハイ王者に輝いたOBの水口貴之氏が専任講師となり、レスリグ部の栄光を求めた闘いがスタートした。実は、鈴木監督と入れ替わりで5年前から同高に常勤講師として勤務していた。しかし、3年間のうちに教員としての実績を残さないと専任講師への道はなくなるため、教師としての活動に専念。レスリングとは無縁の生活をおくっていた。
その壁をクリアし、専任教師となったことでレスリング活動を再開。まず鈴木監督からキッズクラブを引き継いでリニューアル・スタートさせ、選手の掘り起しが始まった。一貫校として中学の教員も兼ねている水口代表は「中学に部をつくり、高校も復活させたい」と、前監督と同じく一貫強化のチームを描いている。
■いずれは海外合宿もやり、世界に目を向けさせる
元格闘家・高田延彦氏似の水口代表は、岐阜・高山市にある「マイスポーツ」の出身。同クラブの洞口善幸代表が鈴木監督の日体大時代の1年後輩だった関係もあり、立命館宇治高へ進み、立命館大でレスリングを続けた。 セコンドからアドバイスを送る水口代表
練習は週2回。これだと、週4~5日練習しているクラブの選手にはまったくかなわないので、「最低でも週3回はやった方がいいかな」とも感じているが、「始まったばかりの、1、2年生中心のチーム。まだ勝つレベルではない」という気持ちと、「今結果を残すことではなく、中高、そして大学くらいでピークを迎えればいい」との気持ちから、無理をさせないでいるようだ。
高校時代、鈴木監督から「授業をしっかり受け、テストの点がよく、それで全国で優勝しなさい。進学校でも全国一になれることを証明なさい」と、何度も言われたという。実際に、テストで一定の点数を取らないと試合には出場させてもらえなかった。そんなチームですごしてきただけに、選手には勉強もしっかりさせ、世界で通じる人間を育てる方針も持っている。
水口代表は「品位と教養がなければ、強くても意味がないんです」と強調し、強さだけを求める指導を否定する。また、外国チームと交わった時、日本選手は日本選手だけでグループをつくってしまい、外国選手に溶け込んでいかないという“島国根性”も直していかねばならないことだと感じている。
自身は「これからの時代、どこで働くにしても英語が必要だ」と思い、大学卒業後、カナダに語学留学(世界を6度制したクリスティン・ノードハーゲンのいるチーム)。日本人がいない環境で英語しか話さなかったこともあり、1年間で英会話力は大きく上達。今の自分につながっている。それだけに、レスリングを強くすることともに、社会で通用し、国際社会で活躍できる人間の育成が目標だ。
「海外合宿もやりたい。外国選手と接する感覚を持たせてやれば、すぐに仲良くなれるんです」。外国選手と気軽に交流できれば、選手として、また人間として、大きく成長するという信念を持っている。「スポーツと英語を通じ、世界を見させて、視野の広い人間を育てたい」。グローバルな人間つくりに力を入れる宇治教室の今後が期待される。