2014.09.21

【特集】「高谷銀メダルの波及効果でアジア大会にも期待」…男子フリースタイル・和田貴広強化委員長(国士舘大教)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

 4年に1度のアジアの祭典、アジア大会(韓国・仁川)のレスリング競技は9月27日(土)から始まる。男子で先陣を切るフリースタイルの和田貴広委員長(国士舘大教)に、銀メダル1個を獲得した世界選手権を振り返りつつ、アジア大会への期待を話してもらった。(聞き手=樋口郁夫)

 《アジア大会・大会日程》
9月27日(土) 男子フリースタイル57・70kg級/女子48・63kg級
    28日(日) 男子フリースタイル65・97kg級/女子55・75kg級
    29日(月) 男子フリースタイル61・74・86・125kg級
    30日(火) 男子グレコローマン59・71・80・98kg級
10月1日(水) 男子グレコローマン66・75・85・130kg級


和田貴広・男子フリースタイル強化委員長(国士舘大教)

 ――世界選手権の総括をお願いします。

 和田 高谷(惣亮=74kg級)が銀メダルを取ったのを筆頭に、全体的に頑張ってくれた。高橋(5位、57kg級=侑希)、高谷大地(7位、65kg級)も内容がよかった。高橋はこれまでの海外遠征の裏付けがあり、合宿ごとに技量が伸びていた。高谷大も8月の世界ジュニア選手権で3位に入り、順調に力を伸ばしている。その大会で脚をけがし、世界選手権前は思ったような練習ができなかったが、そうした状況の中でもある程度の成績を残してくれ、これから世界で勝っていく力を感じた。

 ――上位入賞ならなかった選手はいかがでしょうか。

 和田 松本(篤史=86kg級)は少しずつだが進歩している、キューバにポイントを取れたことは評価したい。鴨居(正和=61kg級)、保坂(健=70kg級)はまだキャリアが不足していて、これからの選手。鈴木(聖二=97kg級)、岡(倫之=125kg級)は、それぞれの階級でやっていくためにはもう少し体重が必要だ。体づくりをしっかりやってほしい。

 ――高谷の銀メダルの大きな要因は?

 和田 彼のレスリングの形、低い構えからのタックルが終始一貫してできたことだと思う。自分の不得意な形になることなく、常に自分の構えができていた。これまでは、片足タックルで飛び込んでも、そこからの処理が今ひとつ。ポイントにつながっても、つながらなくても、体力を消耗してしまうパターンが多かった。今回は彼なりに考えたのでしょう、足首に飛び込んでポイントへつなげるという攻撃が多く当たった。

 ――優勝したデニス・チャーグシュ(ロシア)との差は?

 和田 ロシアの選手は平均して体が柔らかい。高谷のタックルを受けても守りが強く、どんな体勢になっても粘り、そこからレッグホールドなどで自分のポイントへつなげるうまさがある。高谷のタックル後の処理がロシア選手にも通じるかどうかが鍵だったが、相手が一枚上だった。高谷には、特徴を生かしたテークダウンの仕方にもう一工夫ほしい。今回、銀メダルを取ったことで、世界から注目され、研究される。それもあって、もうひとつ別の武器が必要になってくる。

 ――高橋はメダルにあと一歩でしたが、どういったところが成長していますか。

 和田 攻撃的で、タックルを切ったあとのカウンターも上達しています。前は簡単に脚をさわらせることも多かったのですが、さわらせなくなり、そこから攻撃できるようになっています。今回は初出場だからかもしれないが、攻撃を仕掛けるのが少し遅かった。もっと早くから思い切った攻撃を仕掛けていけば、別の結果になったかもしれない。韓国(5-0で勝ち)には、もっと多くのポイントを取れたでしょうし、(負けた)北朝鮮とイランも、別の展開になっていたと思う。

 ――結果として、アジアの選手としか試合をやっていない(ウズベキスタン、カザフスタン、北朝鮮、韓国、イラン)。せっかく世界選手権に出場したのに…。

 和田 まあ、アジアの57kg級はレベル高いですからね。(アジア大会とのからみで)すべての国が一番手ではないにしても、これだけ闘えたということは実力がある証拠。1回戦は地元の選手で、すごい声援の中での試合でした。彼がジュニアの時、地元のカザフスタンの選手とやって、大歓声の中で試合をやって歓声に負けたような試合を見たことがある。今回はペースを乱すことなく冷静に闘って勝つことができた。このあたりにも成長を感じます。

■相手をばてさせるだけではダメ、通じる技を身につけてほしい

 ――3分2ピリオドのトータルポイント制に変わり、スタミナでまさる日本選手に有利になったと言われていますが、そのあたりはいかがでしょうか。

 和田 確かに日本選手はスタミナがあります。ただ、技が通じなければ、いくら相手をばてさせてもポイントにはなりません。技術を身につけなければならない。新しい技術のことではない。自分の持っている技術で確実に外国選手から取れるということ。技術力を高めてこそ、スタミナが生きてくる。下手な鉄砲は何発撃っても当たらないんですよ。6分間という中で確実にポイントを取るためには、確実な技術が必要です。それにはドリル練習をしっかりやっていく必要がある。

 ――だれもが同じ条件ですが、昨年までの午後1時試合開始から午前9時開始(グレコローマンは10時)に変わった。休けいが十分にあるかと思ったが、3面マットだったのでスケジュールが大幅に遅れ、ずるずると試合が続いた。選手はペースをつくれましたか?

 和田 特に(影響は)気がつかなかったですね。こういう大会運営もある、ということを選手は心得ていないとならないです。今回は2020年のターゲット選手も来て行動をともにしましたが、海外では「至れり尽くせり」ではないことを知ってほしい。バスが遅れるどころか来ない時もあるし、進行が長引いたり、食事が合わない時もある。地元の大歓声、ラフファイトをしてくる選手、オイルを塗っている選手…。その中でどうやってモチベーションを保ち、勝ち上がるか。きれいごとばりじゃないです。いろんな状況が起こりうるわけで、この中で勝ち上がっていくことがいかに難しいか。ターゲット選手が来て、見て経験できたことはよかったと思います。

 ――今回、ロシアが5階級を制覇しました。ロシアの強さとは?

 和田 いろんなタイプの選手がいますが、攻撃も守りもバリエーションが多い。世界の多くがロシアに注目し、ロシアの流れを追っていくと思う。その中でも、イランなどはロシア流を学びつつ体力で押し切るレスリングをやっていくと思う。いろんな情報を収集したい。使えない技であっても、知っておくことで防御に役立つ。日本選手の特徴を生かしつつ、世界のレスリングを研究していきたい。

 ――今年の冬はイランとトルコで合宿しましたが、今度の冬はロシアでしょうか。

 和田 ありえます。今回の大会でも「合宿をやらないか」という申し入れもあった。いろいろ考えて海外合宿をやりたい。

■自分の力を出し切れれば、期待通りの結果を出してくれるはず

 ――世界選手権の結果を受けてアジア大会に臨むわけですが、高谷のメダル獲得の波及効果はいかがでしょうか。

 和田 あると思います。最近の世界選手権ではメダルを取ってきている。去年は取れなかったが、今年また取れたということで、自分達にも力があることを感じてくれたはずだ。74kg級という、アトランタ・オリンピック(1996年)の太田拓弥さん以来、世界でメダルを取れなかった階級でメダルを取れたということで、刺激になっている。

 ――アジア大会の期待の一番手は?

 和田 最近の国際大会で結果を出している森下(史崇=57kg級)が一番手でしょう。本人も自覚していると思う。高塚(紀行=61kg級)、石田(智嗣=65kg級)、小島(豪臣=70kg級)と軽中量級に経験豊富な選手がそろっているので、自分の力を出し切れば期待にこたえる結果を出してくれると思う。

 ――グレコローマンでは、昨年、斎川哲克(現98kg級)が5位に入り、今年は園田新(130kg級)がロシアにあわや、という試合をして光明が差している。フリースタイルの重量級はいかがでしょうか。

 和田 重量級は外国選手と闘える体型が重要だ。そういう選手を発掘しなければならないが、東京オリンピックまであと6年と時間は短い。今いる選手に奮起してもらい、強化していきたい。

 ――世界レスリング連合(UWW)のラロビッチ会長に確認しましたが、国際オリンピック委員会(IOC)の方針で開催国枠はありません。

 和田 自分で出場枠を取らなければならないわけで、頑張ってほしい。