※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(撮影=保高幸子) 時にセコンドとして選手を指揮した西口茂樹委員長(中央)
西口 今回は、言い方は悪いのですが2番手を連れてきて苦戦を覚悟していた。しかし、みんなが闘い方を分かっていた。(旧ルールの)2分3ピリオドのピリオド制から3分2ピリオドのトータルポイント制への闘い方になってきたと思います。59kg級の倉本(一真=自衛隊)は十分にメダルを取る実力があっただけに、戦術、戦略のミスで取れなかったのは残念。74kg級の清水(博之=自衛隊)という中量級で頑張ってくれたのは大きい。85kg級の天野(雅之=中大職)も、今まではなかなか勝てない階級だったが、優勝したフランスと0-2の試合をやるなど健闘した。敗者復活戦のスウェーデンとも十分に闘い、今後の闘い方がしっかり見えたと思う。
――闘い方ができたというのは、スタミナがついているということか。
西口 最近、外国選手がばてなくなったと聞いていて不安があったのですが、今回の闘いを見る限り、日本は十分に対応できると思います。
――来年に向けて磨いていくのはその部分、と。
西口 来年の前にアジア大会があります。こちらは長谷川(恒平=青山学院大職、59kg級)、松本(隆太郎=群馬ヤクルト販売、66kg級)、斎川(哲克=栃木・足利工高教、98kg級)のオリンピック代表3人が心身ともに乗っている。あと、74kg級の金久保(武大=ALSOK)も期待できる。今回の世界選手権の結果を聞いて、だれもが「闘えるんだな」と思ってくれると思う。これまでは、まだ世界では闘えない、というイメージがあったと思うが、少し頑張れば勝てる、となれば、だれもが頑張れると思う。
――去年より外国選手はばてるケースが多かったように思う。新ルールの影響か。
西口 だれもが最初から攻めている。だから、ばてるのだと思う。闘いというのは守りの方が簡単。いかに0点に押さえるかということで、守りから入る。今まで(旧ルール)は、お互いに攻めないでどちらかが勝つという試合もあった。今は、勝つためには攻めるという闘いになっている。グレコローマンがオリンピックに残る条件として、お互いに守る展開では駄目だ、という意味もあると思う。
■2番手でここまでやれるのなら、1番手ならもっとやれる
――スタミナ戦に持ち込むために失点しないことや、自分のペースに持ち込むための課題は?
西口 原点に戻るというか、今のルールに合わせてやっていきたい。きょうの倉本の場合、試合時間が2分なら(アメリカ戦で)あんなに簡単にくぐられないはず。少し脇が甘かった。がぶって返すことより、まず、きちんとがぶるという基礎の部分を徹底的にやっておけば、あの状態からでは簡単にくぐられない。ただ、少し見えてきました。去年は苦しかったのは事実です。来年の世界選手権へ向けて、少し見えてきました。 優勝した選手と0-2の試合をした85kg級の天野雅之(中大職)。
西口 JISS(国立スポーツ科学センター)の低酸素施設、標高3500メートル程度の状況で練習しましたが、今後は本格的にこうした練習をやっていこうと思う。皆さんから「グレコローマンは(世界で勝つのは)厳しいね」と思われていたと思いますが、闘えます。最重量級の園田(新=拓大)ですら、あのロシアを投げられるくらいです。本人は「そり投げが怖い。だから先にいってやろう」と思ったそうですが、「押し合いだったらどうにかなった」と悔やんでいました。清水、天野の中量級が頑張ってくれたことに加え、「日本はグレコローマンが厳しい」というイメージが払しょくできたと思う。
――結果を見ていると、いろんな国が勝っていますね。
西口 ロシアがあまり勝っていなし(優勝1階級)、韓国も調子悪い。ブルガリアの去年の(60kg級の)世界チャンピオンがノルウェーに負けた。ある意味では、頑張ればどの国も勝てる。勇気をもってあきらめずにやれば、オリンピックで勝てると思う。
――このあとアジア大会がありますが、オリンピックへ向けての戦略は?
西口 この世界選手権には一番手を連れてきて、ここで実戦を試してアジア大会にぶつける予定だった。協会から東京オリンピックへ向けて幅広く強化しようという方針が示され、2番手派遣になった。2番手でここまでやれるのなら、1番手ならもっとやれるという感触をつかんだ。今回のアジア大会を経て、次のステップにいけると思う。
――1番手と2番手の競争も激しくなって、いいことではないか?
西口 世界選手権で勝つためなら、1番手を連れてくるのがいいと思った。しかし上から「勝つことも大切だが、2番手で勝てないようなら、オリンピックでの勝利はない。2番手も強化しろ」と言われ、そうした。音泉(秀幸=ALSOK、66kg級)にしても、負けたアゼルバイジャン戦のスコアは0-6だったけど、相手はいっぱいいっぱいで、十分に勝つ力はあった。初出場の選手もいて不安はあったが、初出場で「こんなもんか」と思ってくれたら、それもいい。2020年へ向けてのターゲット選手も連れてきたが、ほとんどの選手がアップ場で外国選手をつかまえて練習していた。園田も、ロシアへの首投げが効いたのか、あのあと結構練習を申し込まれている。今回、若手にこうした経験をさせられたのは、よかった。外国選手は怖いものだが、やってみて「こんなもんか」と思ってくれればいいことだ。