※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子、撮影=保高幸子) 12年ぶりの決勝進出を果たし、2位となった鹿屋中央
昨年は木下貴輪(現山梨学院大)が鹿児島県選手として15年ぶりとなる高校三冠王(全国高校選抜大会、インターハイ、国体)になった。野口監督の監督歴5年にして初めての王者で、チームの成長に手ごたえを感じていた。
木下に刺激を受けたのは監督だけでなく、木下の1つ下の後輩で今年の3年生たちも同じだった。“僕たちも木下先輩のようになれるかも”と、野口監督の教えを地道に守って、この夏に臨んだ。
ただ、指導は一筋縄にはいかないときも。野口監督はキッズ時代から父・次夫さん(1980年モスクワ・オリンピック幻の代表選手)の英才教育を受け、史上2人目のインターハイ1年生王者に輝いた生粋のエリート選手だった。そのため、高校から始めた素人選手たちの指導には苦労することもあった。
野口監督は「初心者の心をどうコントロールするか、悩むことがありました。僕から見たら簡単な動きも、初心者にとっては難しい時もある。足の出し方から、ひとつずつ正確に根気強く教えるようにしました」と、自分なりに指導を工夫。その努力が実った準優勝だった。
躍進したもう一つの理由は、1、2年生たちのキッズ・エリート選手たちの加入だ。60kg級には全国中学校選手権大会優勝経験のある榊大夢が加入。「強くなりたい」という本人の希望で福島から鹿児島に越境入学した。今回の登録メンバー11人中、7人が1、2年生だが、そのうち5人が福島、栃木、千葉からの来たキッズ経験者だ。
「九州大会やインターハイ予選は、1、2年生の活躍が大きかったのですが、そのあと3年生が『インターハイは自分たちが頑張るんだ』と奮起してくれました」(野口監督)
3年間、1から努力を重ねた3年生と即戦力のキッズ経験者の力がうまくかみ合ったことで最大限の力を発揮。それが12年ぶりの決勝進出という結果だった。
「去年は個人で全国王者も出したし、今年は団体で2位にもなれました。少しは父に近づけたかな」。6年前に父の後を継いで鹿屋中央の監督に就任した。自身が望まなくても、周りは父と自分を比べてくる。がむしゃらに指導を続け、この夏、確実に偉大な父に近づいたことを実感した野口監督だった。
![]() チームを全国トップレベルに育てた野口勝監督 |
![]() 奮戦した鹿屋中央の選手たち |