2014.07.14

【特集】考えてもいなかったリオデジャネイロが見えた!…男子フリースタイル97kg級・鈴木聖二(岐阜・岐阜工高職)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

 昨年の世界選手権(ハンガリー)では、男子フリースタイル96kg級の山口剛(ブシロード)が8位に入賞し、重量級躍進のベースをつくった。山口は負傷のため無念の戦列離脱。代わって今年の世界選手権へ向かうのは、同じ岐阜県出身で1歳上の鈴木聖二(岐阜・岐阜工高職)。

 6月の全日本選抜選手権で4試合を勝ち抜き、2010年全日本学生選手権優勝以来の栄光を獲得しての代表権獲得。「初めてのシニアの日本代表です。日の丸のシングレットを着て闘うことに緊張しています。世界と力の差はあるかもしれませんが、一戦一戦、頑張っていきたい」と燃えている。

■初対戦の97kg級の選手を、技術でねじ伏せた!

 伏兵の代表権獲得”だった。学生王者という実績はあるものの、4年前の84kg級での成績。昨年まで84kg級で闘っており、全日本レベルの大会はほとんどが3位。卒業して2年間大学に残ったあと、昨年春に地元へ戻り、今は高校選手との練習がほとんどという練習環境。97kg級は初めての挑戦だった。

 鈴木は「体力は東京にいた時の方がありましたね」と、練習量の減少からくる体力の衰えを認める。しかし、高校生相手の練習にも思わぬメリットがあった。キャリアの浅い高校選手の場合、「こうすれば、こう動く、という考えが通用しない場合が多い」こと。

 「素人相手にフェイントは通じない」と言われるが、固定観念が通じない闘いの中から、考えて技を仕掛けることが多くなり、それが自身の成長につながっていると分析する。

 それであっても、1階級上での闘いをいきなり乗り越えたことは驚嘆ものだ。鈴木は「体重が増えたこともあったんですけどね」と前置きしたあと、「技術的には97k級の選手より上だと思っていました。体力では劣っていても、それがうまくはまったんだと思います」と振り返る。

 具体的には、「組み手を負けないように意識し、下がらないことを心がけました。下がってしまうとプレッシャーをかけられます。相手がタックルに来たところをさばいてバックへ、という闘いがうまくできました」と言う。重量級といえども、パワーや体力だけでは勝てないのであり、技術が必要であることを証明した優勝だった。

 自衛隊2選手にも勝っているが、練習量が豊富な“プロ選手”に対し、引け目を感じることはなかったのだろうか? その答は、「自分にとっては今の練習環境があたりまえのことです。練習できていない、という気持ちはなかった。ですから、『負けても仕方ない』という気持ちはなかったです。ただ、『どこで負けてもいい』という気持ちが全力ファイトにつながりました」。前者はマイナス発想で、後者はプラス発想。気持ちの持ち方のわずかな違いが、勝負を分けた。

■周囲の理解と応援とが大きなエネルギー

 だが、“柔よくば剛を制す”という闘いも、日本選手よりワンランク上のパワーを持つ欧米選手相手に通用するものかどうか、という疑問はある。スピードでパワーをかわし、スタミナによる後半勝負というパターンの確立が必要になってくるが、「全日本合宿に参加してみて、大会では感じることのなかった体力の衰えを感じますね」と、今のままではスタミナ勝負に持ち込んでも勝つのは厳しいと感じている。

 「世界選手権までに学生時代の体力を戻すことが課題です」。幸い夏休みに入り、周囲の理解で勤務の都合がつき、8月に予定されているポーランド遠征を含めて全日本合宿にはきちんと参加できそう。長屋千秋校長からも「今しかできないことだから頑張れ」とお墨付きをもらっており、この夏は高校選手の指導を免除してもらって自身の練習に打ち込めるという。

 こうした周囲の理解と応援が、「大きなエネルギーになっている」とも言う。「働いてみて感じたことですが、職場を空けるというのは周囲に大きな迷惑をかけるわけです。それでも送り出してくれることに、言葉では言い表せない感謝の気持ちを感じます」としんみり。

 在学時代は、社会人選手のインタビューで「周囲に感謝したい」という言葉を聞いても、概念的にしか理解できなかったそうだ。今は「しみじみ感じます。選抜で優勝して特に」と言う。

■全日本合宿での最前列での整列で自覚が芽生えた

 他にも、初の世界選手権出場での刺激は多い。高校の教え子の応援もそうだし、「全日本合宿の整列で一番前に並んだことがとても新鮮でした。チャンピオンのサポートでここにいるんじゃないんだ、という気持ち。(選抜で)優勝した時は、まだ実感が湧きませんでしたが、これで自覚が出てきました」。初の世界選手権出場に、気持ちは高揚している。

 リオデジャネイロ・オリンピックという目標は、「正直言って、まったく考えていませんでした」言う。しかし、「今回の優勝で周りから言われ、そう言われると、そんな気持ちになるんですよね」と笑い、「せっかくだから、そのムードに乗らせてもらおうかと思います」と、今ははっきりした目標となっている。

 もちろん、「年末には山口選手が戻ってくるでしょう。(山口が84kg級時代に)五分くらいの成績を残していますけど、今は完全に“挑む”という立場です。今回勝った相手も、このままで終わることはないはず」と、厳しい闘いは覚悟している。それでも、「挑みたい」ときっぱり。

 まずは初の世界選手権での健闘が期待される。