※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子) 6月末の全日本合宿からスタートした笹本睦・日本協会アシスタント・コーチ
先月末の全日本合宿(東京・味の素トレーニングセンター)から実質的に指導を開始。若い選手に対して的確な指導を行った。笹本コーチは「グレコローマンが世界で勝てるように、アドバイスしていきたい」と就任の抱負を話した。
■ドイツに2年間滞在し、欧州のレスリングを学ぶ
現役引退後の2012年6月からドイツに渡り、先月までの約2年間、コーチングを学んだ。「現地では軽量級の技術指導を中心に、日本でよく行っているマットの補助運動を教えていました」と、日本式の練習方法を取り入れた指導を行っていたようだ。
現地にいて最大のメリットだったのは、国内旅行の感覚で他国に行ける利便性だった。「ドイツだけではなく、いろいろな国に行かせていただいた。ヨーロッパ全体のレスリングを知ることができ、大変勉強になりました」と、ドイツだけにとどまらない収穫があった。
2年間の滞在で、「ヨーロッパの選手がどのように闘うかが分かりました」と胸を張る。「日本のレスリングは、ずっと一定の動きなんです。ポイントを取られてしまい、最後の方で力を出すパターンです。ヨーロッパの選手は最初から100パーセントの力を出してきます。体が崩れていても、でたらめな技でも、何がなんでもポイントを取ろうとします。きれいな技をかけている選手は、あまりいませんでした」。 2006年のアジア大会で男子唯一の金メダルを獲得した笹本コーチ
選手層も、日本とヨーロッパではだいぶ事情が違った。「日本では1位と2位の差が開いている階級が多いですが、ヨーロッパでは、1番手と2番手の差が拮抗(きっこう=接近)していて、その中で練習しているから、お互いに強くなれる。その選手層で他国と合宿をしますから、さらに力をつけていきますね」と、ヨーロッパの恵まれた環境を話した。
■欧州に勝つチャンスは「あります!」
グレコローマンの強豪国が名を連ねるヨーロッパで目を肥やした笹本コーチ。久々に見る日本の練習を見ての感想は、「練習内容では、日本は全然負けていないですよ。西口先生(茂樹=男子グレコローマン強化委員長)をはじめ、豊田(雅俊)コーチや馬渕(賢司)コーチの練習メニューは、すごくいいと思います。短い練習を1日3回に分けて行うのも、集中力が切れなくていいと思います。この練習を信じてやり抜けば、強くなれると思います」と力強いコメントを寄せた。
日本人に追い風が吹いている点として、笹本コーチは「ルール変更」と話す。「ヨーロッパ選手は、やはりスタミナがないと思いました。新しいルールはスタミナが必要なので、日本人向けのルールです。点数で負けていても、3コーションはすぐつく」と言う。ドイツ選手権では、5-3で勝っていた選手が終盤に3コーションで警告失格というのがあったそうで、欧州選手の平均的な弱点のようだ。
ただ、「ヨーロッパの全選手がスタミナがないわけではない。その見分け方にコツがあります。スタミナがない選手は、最初から(技を)受けることが多いので、その部分を攻めていけばチャンスが出てくると思います」
■海外でのサポートに力を入れたい グレコローマンに頼もしいコーチが加わった
「秋には世界選手権にも帯同する予定です。今回の世界選手権は若手が多く選ばれました。チャンスだと思って頑張ってもらいたい。メダルを獲らせるように全力でサポートします」。
昨年のハンガリーで行われた世界選手権でも、ドイツのコーチとして会場にいた。「まだ現役を続けている選手もいましたが、自分たちの世代の多くがコーチになっていて、すでに選手を育てていた。思ったより知り合いがいっぱいいたんですよね」と、同世代に刺激を受けた様子。同世代のコーチに負けじと、自身も世界選手権のメダリストを育てることを決意。日々指導にまい進する気持ちを固めていた。