2014.07.02

【特集】2年間のコーチ留学を終えた笹本睦氏がアシスタント・コーチとして始動

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=増渕由気子)

 2000年シドニー・オリンピックから3大会連続出場を果たした強豪が、全日本コーチに! 2007年世界選手権で2位の実績も持つ笹本睦さんが、7月1日付けで日本協会のアシスタント・コーチに就任。栄和人強化委員長(ナショナルチーム・コーチ)を助けて全日本チームの強化に携わることになった。

 先月末の全日本合宿(東京・味の素トレーニングセンター)から実質的に指導を開始。若い選手に対して的確な指導を行った。笹本コーチは「グレコローマンが世界で勝てるように、アドバイスしていきたい」と就任の抱負を話した。

■ドイツに2年間滞在し、欧州のレスリングを学ぶ

 現役引退後の2012年6月からドイツに渡り、先月までの約2年間、コーチングを学んだ。「現地では軽量級の技術指導を中心に、日本でよく行っているマットの補助運動を教えていました」と、日本式の練習方法を取り入れた指導を行っていたようだ。

 現地にいて最大のメリットだったのは、国内旅行の感覚で他国に行ける利便性だった。「ドイツだけではなく、いろいろな国に行かせていただいた。ヨーロッパ全体のレスリングを知ることができ、大変勉強になりました」と、ドイツだけにとどまらない収穫があった。

 2年間の滞在で、「ヨーロッパの選手がどのように闘うかが分かりました」と胸を張る。「日本のレスリングは、ずっと一定の動きなんです。ポイントを取られてしまい、最後の方で力を出すパターンです。ヨーロッパの選手は最初から100パーセントの力を出してきます。体が崩れていても、でたらめな技でも、何がなんでもポイントを取ろうとします。きれいな技をかけている選手は、あまりいませんでした」。

 綺麗な技にこだわるレスリングをする日本選手に対し、ヨーロッパのレスリングは“泥臭い”レスリングに映ったようだ。

 選手層も、日本とヨーロッパではだいぶ事情が違った。「日本では1位と2位の差が開いている階級が多いですが、ヨーロッパでは、1番手と2番手の差が拮抗(きっこう=接近)していて、その中で練習しているから、お互いに強くなれる。その選手層で他国と合宿をしますから、さらに力をつけていきますね」と、ヨーロッパの恵まれた環境を話した。

■欧州に勝つチャンスは「あります!」

 グレコローマンの強豪国が名を連ねるヨーロッパで目を肥やした笹本コーチ。久々に見る日本の練習を見ての感想は、「練習内容では、日本は全然負けていないですよ。西口先生(茂樹=男子グレコローマン強化委員長)をはじめ、豊田(雅俊)コーチや馬渕(賢司)コーチの練習メニューは、すごくいいと思います。短い練習を1日3回に分けて行うのも、集中力が切れなくていいと思います。この練習を信じてやり抜けば、強くなれると思います」と力強いコメントを寄せた。

 日本人に追い風が吹いている点として、笹本コーチは「ルール変更」と話す。「ヨーロッパ選手は、やはりスタミナがないと思いました。新しいルールはスタミナが必要なので、日本人向けのルールです。点数で負けていても、3コーションはすぐつく」と言う。ドイツ選手権では、5-3で勝っていた選手が終盤に3コーションで警告失格というのがあったそうで、欧州選手の平均的な弱点のようだ。

 ただ、「ヨーロッパの全選手がスタミナがないわけではない。その見分け方にコツがあります。スタミナがない選手は、最初から(技を)受けることが多いので、その部分を攻めていけばチャンスが出てくると思います」

■海外でのサポートに力を入れたい

 全日本チームが笹本コーチに期待するひとつに、2年間で培った人脈がある。「2年間のドイツ滞在で、(各国のコーチと)コミュニケーションが取れている」とのこと。選手と現地との架け橋としても大きな力を発揮しそう。手始めとなるのが、グレコローマンの3選手で予定されている夏の欧州遠征。いくつものパイプを使って、効果的な練習参加が期待される。

 「秋には世界選手権にも帯同する予定です。今回の世界選手権は若手が多く選ばれました。チャンスだと思って頑張ってもらいたい。メダルを獲らせるように全力でサポートします」。

 昨年のハンガリーで行われた世界選手権でも、ドイツのコーチとして会場にいた。「まだ現役を続けている選手もいましたが、自分たちの世代の多くがコーチになっていて、すでに選手を育てていた。思ったより知り合いがいっぱいいたんですよね」と、同世代に刺激を受けた様子。同世代のコーチに負けじと、自身も世界選手権のメダリストを育てることを決意。日々指導にまい進する気持ちを固めていた。