2014.06.22

【全日本選抜選手権・特集】若手を退けて復活優勝!…男子グレコローマン59kg級・長谷川恒平(青山学院大職)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

《決勝VTR》 

(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)

 新階級の男子グレコローマン59kg級は、ロンドン・オリンピック55kg級代表が制した! 全日本選抜選手権の同級は、ロンドン・オリンピック55kg級代表の長谷川恒平(青山学院大職)が決勝で昨年55kg級世界選手権代表の田野倉翔太(クリナップ)を破り、プレーオフで昨年60kg級世界選手権代表の倉本一真(自衛隊)を下して優勝した。

 これで2010年広州アジア大会に続いて2大会連続のアジア大会出場を確実にした。広州で優勝していたもう一人の米満達弘(自衛隊)はこの大会に出ていない。長谷川は「男子でアジア大会連覇を目指せるのは僕しかいない。それに向けて練習に励んでいきたいと思う」と2連覇に意欲を見せた。

 今年4月、母校の青山学院大の職員に採用され、普段は学生生活課でフルタイムの業務をこなしている。その上で、レスリングの指導を兼ねて練習を積んできた。

 “プロ選手”として福一漁業に所属していた時に比べると、練習量は量質ともに下がり、「十分の一程度ほどの内容」だったそうだ。「こんな練習内容で試合に出ていいものなのか」と、試合に出場するかどうか悩む日々。それは減量を始める1週間前まで続いた。

 だが今大会、7年ぶりに「青山学院」のシングレットを着用してマットに上がった理由は、「セコンドには、これから30年つけるかもしれないけど、競技は今しかできない。『がんばればここまでできる』という姿を学生に見せたかった」と、“指導”の一環でマットに上がったという。

 少ない練習量ながら優勝できたことに対し、長谷川は「前に出ること、先に攻めることなど、いつも学生に言っていることができてよかったと思う」と満足そうに話した。

 大会初日の試合開始は午前9時半。この日の最後の試合となった長谷川と倉本のプレーオフが終わった時、時計の針は午後8半を指していた。11時間半にも及ぶ長期戦。ベテラン勢には厳しいスケジュールかと思われるが、「私はふだん9時間デスクワークをやっています。一日中レスリングをやれて幸せです」と笑顔で返し、「今回は負けたら引退だと思ってやっていた」と、固い決意を持って臨んだことも明らかにした。

 長谷川の思いは、青学大の学生だけではなかった。長谷川は今年30歳。ベテランの域にはいってきた。大会後の会見では、「今回はベテラン勢が頑張った大会でした。でも、リオ・オリンピックや東京オリンピックを目指す若手も出てきている。若手がベテラン勢を追い越して、長期政権を築いてもらいたい」と、若手を思いやる言葉もあった。

 長谷川自身も2008年、グレコローマン最軽量級で絶対王者だった豊田雅俊(現全日本コーチ)を破って北京オリンピック最終予選に出場。その後6年間も国内では敵なしの強さを誇った。今大会、長谷川を超える若手はいなかった。長谷川は「大学側が許可するうちは、試合で頑張りたい」と選手として今後も第一線での活躍を口にした。

 長年、日本のエースと称された長谷川だが、まだ世界の表彰台は経験していない。“世界一”という忘れ物を、この秋、長谷川は満を持して取りに行く―。