2014.05.14

アジア・カデット選手権代表チームが帰国

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

 3スタイルで「金7・銀7・銅2」を取ったアジア・カデット選手権の日本選手団が5月13日、羽田空港着の日本航空機で帰国した。

 大会が行われたタイは、現在は最高気温が35度を越える日が続いており、最低気温も27~28度という猛暑の国。体育館も移動バスもエアコンがなく、宿舎から会場への移動だけでも疲れが出てしまうとか。参加したスタッフからは「昭和のインターハイを思い出した」という声も出た。どの国も条件は同じだが、エアコンのある会場が普通の日本の選手には、かなり厳しい環境だったようだ。

 女子の成富利弘監督(東京・安部学院高)は、日程によるモチベーションの維持にも苦しんだという。通常、女子の試合は2日間か、長くても3日間で全階級が終わる。3スタイル同時進行の今回は、4日間をかけて試合が行われた。「待たされる選手にとっては、気持ちを保つのが大変です。試合が終わった選手が増えていくのですから」と言う。

 その中でも、向田真優(JOCアカデミー/東京・安部学院高)以外は2番手の選手でありながら、「金4・銀3・銅1」を取れたのは、「日本の地力でしょう」と言う。日本の強さを再確認するとともに、「選手も自信になると思います」と言う。

 ただ、43・46・49kg級は3階級とも北朝鮮に敗れ、ちょっぴり脅威らしきものも感じた様子。「体幹が強く、日本的なレスリングをやります」とのことで、2020年オリンピックに向けて対策が必要になるかもしれない。

■ウォーミングアップ場でも堂々としていた女子選手に刺激を受けた男子選手

 「金3・銀2・銅1」という今までにない好成績を挙げた男子フリースタイルの藤波俊一監督(三重・いなべ総合学園高教)は「監督としての責任を果たせてホッとしています」と安堵の表情。現地入りした直後は、調整練習というより追い込んだ練習をやって指揮を高めたそうで、選手の気持ちの高揚が大きかったと振り返る。

 加えて、初日に85kg級の石黒峻士(埼玉・花咲徳栄高)が優勝し、「チーム全体に『勝てる!』という気持ちができた。重量級のあの優勝が大きかった」と勝因を挙げた。

 また、今大会は女子チームと同一日程で、日本の女子チームがウォーミングアップ場などでも実に堂々としていたことも、大きな影響があったという。「女子選手は行動のすべてに自信が満ちあふれています。それを見て、感じるものがあったと思います。勝負の世界、自信というのが大きいことを感じました」と話し、自信を持つことも大切さを訴えた。

 「銀2」に終わった男子グレコローマンは、試合前のアンケートの結果、レスリングを始めたのは小学生からであっても、グレコローマンのキャリアは浅い選手ばかりだったという。練習を本格的にやったのは1ヶ月前という選手もいるという中での試合だった。

 文田敏郎監督(山梨・韮崎工高教)は「そんな状況で、どこまでできるのかな、けがをしなければいいな、くらいの気持ちがあった」と言う。ふたを開けてみると、「いいものを持っている選手が多かった。やはり幼少の頃からレスリングをやっている選手は能力が高い」と感じたそうだ。

 日本ではグレコローマン専門というわけにはいかないが、グレコローマンの技術を本格的に教えることで「伸びる可能性のある選手が多い」と言う。「日本のグレコローマンは弱い、ではなく、グレコローマンを始めるのが遅い、です。もう少し早くからグレコローマンに取り組んでくれる選手が増えることで、世界で通用する選手が増えると思います」と振り返った。

 同監督は、日本選手の礼儀やマナーの面でのすばらしさを強調した。外国チームには「食べた後始末をしない、飲んだ入れ物を平気で足元に捨て、体育館の床につばを吐くなど、びっくりするほどマナーの悪い国もあった」とのことで、日本選手の行動こそがチャンピオンとしてのあるべき姿だと感じたようだ。


 ■女子38kg級・田口あい(岐阜・飛騨高山高)「2年連続で優勝できて、とてもうれしいです。去年はポイントを取られましたが、今年は4試合で1点も取られなかったこともよかったです。去年と同じ階級での出場ですので、1年間の練習の成果が出た結果だと思います。暑かったですが、コンディションを整えて万全の態勢で臨めました。世界カデット選手権でも入賞を目指して頑張ります」

 ■女子40kg級・植野麻奈美(京都・網野中) 「自分から攻めてポイントを取ることができ、守りもしっかりできました。日本で闘う選手の方が強いと思いますが、外国選手は力があり、戸惑った部分もありました。暑さの中でも体調管理はしっかりできたと思います。来月には全中(全国中学生選手権)がありますので、しっかりと優勝したい」

 ■女子52kg級・向田真優(JOCアカデミー/東京・安部学院高)「ユース・オリンピックの予選でしたし、優勝できてよかったです。初戦から足が動き、自分のレスリングができたのが優勝につながったと思います。日を重ねるごとに暑さに慣れていって、暑いからばてたとかはなかったです。ユース・オリンピックまで時間があるので、今回の反省点を修正し、よかったところを伸ばして優勝を目指します。その前に、明治杯(全日本選抜選手権)で優勝することが目標です」

 ■女子56kg級・熊野ゆづる(東京都・安部学院高)「タックルでポイントを取れ、練習してきたことをすべて出せました。積極的に攻めたことがよかったと思います。遠征はクリッパン国際大会に続いて2度目です。前回はダメでしたが、その時の経験を生かせたと思います。暑さの中で闘うことになりましたが、これもいい経験だったと思います。次はインターハイで優勝することが目標です」

 ■男子フリースタイル50kg級・乙黒拓斗(JOCアカデミー/東京・帝京高)「タックルから得意技のアンクルホールドがかかり、ポイントを積み重ねられました。練習でやってきたことです。決勝のイラン戦はきつかった。常にリードしていましたが、苦手なタイプで、うまく対応できませんでした。コーション取られたことも不満です。でも、泥試合でもいいから勝ちたかった。イランという国に嫌な感じはしましたが、闘ってみたら、ずば抜けて強いわけではなかった。世界カデット選手権でも優勝したい」

 ■男子フリースタイル76kg級・山﨑弥十朗(埼玉・埼玉栄高)「今回の優勝はうれしいですが、このあと世界カデット選手権、ユース・オリンピックと続くので、気を引き締めていきたい。攻め続けられたことが勝因だと思います。決勝は、第1ピリオドを0-1で、第2ピリオドにコーションを取って1-1。最後の8秒くらいで2-1にして勝てました。きつかったですが、『勝ちたい』という気持ちが勝利につながったと思います。国際大会の優勝は格別です。4年前のユース・オリンピックで日本選手(高橋侑希=現山梨学院大)が優勝していますので、続きたいと思います」

 ■男子フリースタイル85kg級・石黒峻士(埼玉・花咲徳栄高)「去年の世界カデット選手権は初戦敗退でしたが、外国選手の試合を見たことで、今回の闘いに生かすことができました。自分の距離で試合ができ、リラックスして闘えました。準決勝は5-4。自分も相手もばててしまった試合で、最初に取っていた自分が勝ちました。先に攻めてよかったです。ウチの高校は夏でも冷房のないところで練習していますので、暑さは気にならなかったです。世界カデット選手権も優勝を目指し、攻め続けられる試合をやりたい」