※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
“注目”という敵にも勝ち、世界へ飛躍する高橋昭五(日体大)
「うれしいです。目の前の目標を達成できてよかったです」。昨年はこの大会3位で、東日本学生の2度の新人選手権でともに2位。優勝が見えるところまでたどりつきながら、手が届かなかった。悲願の全国優勝に、「表彰台の2位と一番上とは全然違いますね。今後のモチベーションも違います」と喜びを表した。
初戦で注目選手と闘う組み合わせを見た時、「優勝するために闘わなければならない相手なら、早いうちに闘った方がいい」と思い、特別な緊張はなかったという。「カデットの世界チャンピオンで、これから伸びてくるかもしれないので、今のうちにたたいておかなければ、という気持ちがありました。年下の選手には負けたくなかった」とも話し、緊張というより、「絶対に勝つ」という気持ちが強かった。
自信を問われると、「ありました」ときっぱり。グレコローマンでは他大学の追従を許さない日体大の選手のプライドを見せた。
山本アーセンとの試合では、密着取材のテレビ局を含めて約20人の報道陣(記者、カメラマン、TVクルーなど)がマットを取り囲み、JOC杯史上最高と思われる注目の中での試合だった。マスコミのお目当ては相手選手だが、「あれだけの報道陣の中で試合ができることがうれしかったです。やってやるぞ、という気持ちにさせてもらいました。しっかり撮影してほしかったです」と、マスコミのパワーを自身のエネルギーとして吸収。この気持ちの高揚も、撃破につながったようだ。
結果として決まらなかったものの、豪快な投げ技を仕掛けて勝負をかけた決勝
決勝の相手の雨宮隆二(山梨学院大)は今年階級を上げた選手。66kg級での闘いは未知数だが、昨年の60kg級王者で、全日本大学グレコローマン選手権でも2位になっている強豪。「ちょっと緊張しました。世界につながる大会ですし、絶対に勝たなければならない試合でしたから」と言う。
2-1で勝ってその壁を乗り越えられたのは、「松本(慎吾)監督やオリンピック代表をはじめとしたOBの方々の指導のおかげだと思います。同級生にも下級生にも鍛えられている環境ですし」と言う。今年2月には、チームで特別に選ばれた5選手で韓国のグレコローマン専門にやっている大学の練習に参加させてもらった。多くのことを学ぶことができ、そうした要素が実力をアップさせてくれたという。
中学時代まではサッカーの選手。兄・遼伍さんが総合格闘技をやっていて(奇しくも、山本アーセンの叔父の山本KID徳郁の運営する「KRAZY BEE」に所属している)、自分も格闘技をやってみたくなり、兵庫・育英高に進んでからレスリングを始めた。キッズ・レスリング全盛期の現在、高校からレスリングを始めた選手が2年半のうちに全国一になるのは、かなり厳しいのが現実。高橋も3年生の最後の国体で2位に入ったのが最高だった。
「心のどこかに、全国優勝は無理かな、という思いがあった」と反省する。世界を目指す集団に入ったことで、今ではそんな気持ちはまったくない。この大会に臨むにあたっても、「絶対に優勝する」という気持ちだったという。
その目標は達成したが、もちろん、これが最終目標ではない。「優勝したからと言って調子に乗らず、目標を高く持ち、2位との差を離したい。全日本、そして世界でどこまで通じるか、チャンレンジ精神もって今シーズンに挑みたい」と話し、飛躍を誓っていた。