※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(日本協会強化委員長・栄和人)
第2回「米国で頑張る永島聖子さんにエールを贈ります」
3月の東京開催の女子ワールドカップでは、日本チーム以外のチームに、一人の日本人が活躍していました。米国のコーチを務めていた永島(旧姓山本)聖子さんです。昨年7月に同国のコーチに請われ、ジュニア選手を中心に、時に全米チームをも見ています。
聖子さんは吉田沙保里が目標としていた選手であり、聖子さんがいなければ今の沙保里もありえなかったでしょう。オリンピックで女子が7階級実施されていれば、間違いなくオリンピックのマットに立っていたと思います。オリンピック出場は実現しませんでしたが、今は米国のコーチとしてリオデジャネイロ・オリンピックの舞台を目指しています。 米国コーチとして活躍する永島聖子さん
応援したいと思います。こう書くと、「敵国を応援してどうする」といったお叱りの声が起こりそうです。しかし、狭量な気持ちで言っているのではありません。何かに全力で挑む人間を応援することは、人間として当然のことです。
聖子さんは米国協会にその力を認められ、請われてコーチに就任しました。すばらしいことであり、誇りにしてほしいことです。求められる能力があればこそであり、力を存分に発揮してほしいと思います。切磋琢磨して競うことで日本のレベルも上がります。いえ、「日本のため」といった狭い視野ではなく、世界の女子レスリングの発展につなげるためにも、頑張ってほしいと思います。
■日本のレスリングを米国に認めさせた!
ここで思い出すのが、“シンクロの母”と呼ばれている井村雅代コーチのことです。井村コーチは、1984~2004年に6度のオリンピック・コーチを経験し、日本のシンクロがメダルを取り続けた立役者です。その後、中国のコーチとなり、ロンドン・オリンピックでは同国を過去最高の銀メダルに導きました。
私も昨年5月、出版記念パーティーに招待され、指導者としての情熱と姿勢に感銘しました。同じ指導者として感じることが多くあり、井村コーチの域に達するには、まだ修行しなければならないと思いました。
日本のシンクロを背負ってきた井村コーチが中国代表のコーチに就任した時、国内ではかなりの非難があったようです。就任した時は「いいじゃないか」と言っていた人が、中国が日本よりいい成績を残すと、「裏切り者!」「売国奴!」と言い始めたそうです。このあたりは、井村コーチが著書「教える力」に詳しく書いておられます。
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井村コーチは著書で「私、日本をやっつける気なんか、つゆほどもありませんでした。自分が強くした日本に誇りを持っていましたから。私が中国に行く理由は、日本シンクロを世界に認めてもらうためなんです」と書かれています。シンクロの世界のことはよく分からないので安易な批評は避けますが、純粋な気持ちが周囲に理解されなかったのは、井村コーチにとっては、とても残念なことだったことと思います。
私たちは、聖子さんの行動を非難してはなりません。日本のレスリングを米国に認めさせたことを、誇りに思うべきだと思います。
こんなことを書かなくとも、日本のレスリング界には、ライバル国に行ってその国を強くした指導者を非難するような土壌はないと信じています。吉田沙保里の連勝記録をストップさせたのは、日本レスリング界の創始者・八田一朗会長の次男の八田忠朗氏が教えた選手(マルシー・バンデュセン)です。
日本のレスリング界からは、八田氏を非難する声はまったくあがりませんでした。私も沙保里も、「次に闘う時は絶対に負けない」と気持ちを引き締めて練習に打ち込み、この黒星を肥やしにして北京オリンピックの金メダルを取ることができました。八田コーチとデュセンの存在がオリンピックの金メダルにつながったわけで、非難どころか感謝もしました。スポーツとはこうあるべきだと思います。
聖子さんには、本気になって打倒日本に取り組むことを望みます。私たちは真っ向から受けます(負けません!)。異国で頑張る聖子さんを、心から応援したいと思います。