※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=樋口郁夫)
世界へ飛躍する角雅人(自衛隊)
60kg級全日本2位の太田は、ある意味では順当な選抜だが、84kg級全日本4位の角は、「予想もしていなかった」(本人談)という抜てき。「このチャンスを逃がしたくない。臆せず、相手が世界の何番であろうが自分のレスリングをやりたい」と燃えている。
角が選ばれたのは、80kg級というまったく新しい階級ができたことで(旧階級は74kg級の上は84kg級)、適当な選手が少ないという面はあるだろう。だが、高校時代に無名の存在から、昨年のJOCジュニア選手権で優勝し、今年3月のゴールデンGP予選大会「ハンガリー・グランプリ」で5位入賞という成長度を評価されての抜てきであることは言うまでもない。
通常体重は85kgくらいで、減量に苦労しない最適の階級とも言える。オリンピック階級ではないものの、今年はこの階級でやって力をつけていく方向のようだ。「今は勢いでやっているようなもの。基礎体力と技術を身につけ、実力で勝てるようにもていきたい」と、12月の全日本選手権での80kg級王者を目指す。
■2~3月のハンガリー遠征で大きな収穫
欧州の強豪が集まることで有名な「ハンガリー・グランプリ」への出場を含め、この冬のハンガリー遠征は価値ある遠征となった。まず練習での考え方の違いから知った。国内では、打ち込みの段階でのリフト練習は“上げるまでが勝負”であるのに対し、「(外国選手は)リフトを上げて、投げてくるんです」。国際合宿だからであって、自国チーム内での練習ではどうなのか分からないが、試合と変わらぬ姿勢と気迫を感じた。
ハンガリー・グランプリで闘う角(青)
全体として、とにかく前へ出て攻めることを心がけたところ、「たまたまかもしれませんが、通じました。オレが強いんだ、という気持ちでやれば、勝てないことはありません」という手ごたえも感じた。スタンドで取れる技の習得とグラウンドの攻防が急務で「課題は多すぎますけどね」と笑いながら、明確な方向性が見えてきたのは遠征の収穫だった。
ハンガリー遠征の前のイラン遠征には参加していないが、「ハンガリー・グランプリ」でイラン選手2人と闘い、わずかであってもイラン・グレコローマンの強さに接することもできた。昨年末の日韓合同合宿では、もうひとつのグレコローマンの雄、韓国選手とも練習し、はからずもアジア選手権へ向けての態勢は整った。
「イランも韓国も強いですけど、同じアジアの民族。自分達にできないことはない。身の程に合わないかもしれませんが、出る以上は優勝が目標。アジア選手権でも優勝を目指します」ときっぱり話し、気持ちは上を向いている。
■小さな達成感を積み重ねて成長
全日本合宿で飯室雅規コーチから指導を受ける角
昨年の世界ジュニア選手権は、JOC杯で優勝し、「オレが日本の代表だ。オレが一番強いんだ」という気持ちで臨めた。今回は全日本4位からの抜てき出場。これも立派な日本代表だが、やはり気持ち的に引いてしまう部分も出てくるようだ。「それじゃあダメです。自分を厳しく追い込みたい」と言うとともに、「このチャンスを逃してなるものか、という気持ちもあります」と話す。
1994年3月生まれなので、今年も世界ジュニア選手権の出場資格があった。JOC杯とアジア選手権が重なり、その機会を逃したのは残念だが、カザフスタンではそれを補うだけの収穫を手にすることができるはずだ。飛躍が期待される。