※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)
ジュニア48kg級を難なく勝ち、シニア48kg級に本格参戦する宮原優(東洋大)
48kg級の試合に出るのは、3月のクリッパン女子国際大会(スウェーデン)に続いて2度目。この大会は2kgオーバー計量(50kgで計量)なので、本当に48kg級へ落としたのは今回が初めて。51kg級で世界選手権を経験した宮原にとって、48kg級での試合は、「相手が軽くてびっくりした」という世界だった。
しかし「今日はジュニアレベル。シニアはレベルが高いので、ジュニアで優勝して喜んでいる場合ではない」と、勝って兜(かぶと)の緒をしめた。
■2年では吉田沙保里を追い越せない!
オリンピック除外問題にからんだ階級区分変更により、宮原がここ3年ほど主戦場としてきた51kg級は消滅。選択肢は48kg級か53kg級のどちらかとなり、宮原は48kg級を選択した。「体重が40kg台になったのが久々。体重を落として、どれくらい動けるかな、と思いましたけど、思ったより体重はすんなり落ちて、体も動けました」と、約3年ぶりの40kg代での戦いに手ごたえを感じていた。
高校1年の2010年にユース・オリンピック46kg級で金メダルを獲得し、その後、カデット49kg級で国内の大会を闘った後は、51kg級で活躍してきた。昨夏の世界選手権(ハンガリー)の時は、階級を上げて吉田沙保里(ALSOK)との対戦も覚悟しているような発言もあったが、12月の全日本選手権が終わった後、家族などと話し合って、正式に48kg級への変更を決めた。
最大の理由は体格の問題だった。「体重は重くないし、53kg級では小さい。(その状態で)2年で沙保里さんに追いつくには時間が足りない。48kg級で勝負した方が勝算があると思った」。昨年の51kg級の世界選手権では、前年の世界女王に完敗した。ここから2kg増える階級で、リオデジャネイロ・オリンピックを目指すには“時間切れ”と判断したようだ。
同階級で闘ったこともある宮原(左)と登坂絵莉=2010年JOC杯。運命の糸は、2人を再び引き合わせた
■同郷の登坂絵莉との激闘が始まる!
48kg級で待ち構えているライバルは、現役世界チャンピオンの登坂絵莉(至学館大)だ。宮原と同じ富山県出身。尊敬し、大好きな同郷の先輩である。「絵莉先輩と同じ階級になるのが、本当に嫌でした。できれば、違う階級で一緒に勝ちたいと思っていた」との本音も。
しかし、女子のオリンピック階級は6階級。選手生命も考えると、大好きな先輩であっても、リオの代表を譲るわけにはいかない。「一緒にレスリングも始めて、ずっと仲が良くて…。でもやっぱり仲良かったからこそ、追い越すために全力でぶつかっていきたい」と決意を表した。
昨年12月に全日本チャンピオンになっている宮原は、先月のワールドカップ(東京)や今月のアジア選手権(カザフスタン)の代表となる権利を有していたが、階級変更を理由に辞退。貴重な海外実践を棒に振ってまで48kg級にかけた。
「悔しかったけど、6月の全日本選抜選手権で、その思いをぶつけたいです」。JOCアカデミー1期生として、同チーム初のオリンピアンを目指し、宮原が48kg級で新たな一歩を踏み出した。