※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=樋口郁夫、撮影=矢吹建夫)
2試合を無失点で優勝した栄希和(至学館大)
栄は「優勝は3年ぶりで(2011年のこの大会のカデット60kg級以来)、表彰台に慣れていません。表彰台に立った時は本当にうれしかったです」と満面の笑み。決勝の相手(鈴木紅夏=東洋大)は昨年の世界ジュニア選手権67kg級3位の選手。強いことを知っており、「無理に攻めて無駄な失点をしないことを心がけた」と手堅い戦法に徹した。その作戦がぴたりと当たった。
昨年のこの大会は59kg級に出場して2位。アジア・ジュニア選手権(タイ)の代表となり、3位に入賞して日本代表としてのノルマは果たした。今年も「日本代表に恥じない試合をしたい」と、世界ジュニア選手権での健闘を口にした。
■「技術では負けても体力では負けない」という気持ちが実力アップへ
女子の場合、男子以上にキッズ時代からレスリングに取り組んだ選手が大半を占めるが、栄は中学の途中からレスリングに取り組んだ選手。キャリアでは、この日の優勝選手の中で一番短いのではないか。それを補っての優勝は、父はオリンピック代表、母(坂本涼子=兵庫・芦屋学園中監督)は世界チャンピオンという血筋か、それとも至学館高~至学館大での練習の成果か。
キッズ時代からレスリングをやっていた選手に比べると、技術面で大きな差を感じたという。その分、「体力で負けないようにしよう」と思ってやってきたことで、実力も追いつきたようだ。
2011年の世界カデット選手権(ハンガリー)は、同門の川井梨紗子(1学年下)と一緒の出場だった。川井は優勝で、自身は1勝2敗で9位。川井は翌年、世界女子選手権(カナダ)の代表に選ばれ、先月の東京開催のワールドカップに抜てきされて4戦4勝をマークするなど、先を行かれてしまった。しかし、「梨紗子は元々強い選手です。私は私のペースでやっていけばいいと思っています」と焦りはない。
実は、川井より先に手にした勲章もある。昨年のワールドカップ(モンゴル)に、当初の選手が負傷で辞退したことによる代替だったが日本代表として参加したことだ。父に「おまえが一番弱いんだ」と言われて送り出された大会は、ただ一人4戦全敗。その時の悔しい思いが、今につながっている。
「あの時は自分の攻撃が全然通用しなかった。攻撃どころか、攻撃につなげるまでのものが全然できていなかった」。組み手など攻撃に入るまでの技術マスターの必要性を痛感したそうで、以来、そうした練習に力を入れてきた。「(世界ジュニア選手権では)あの時とは違うものを見せたいです」と言う。
その後の目標は世界選手権(60kg級)の出場と優勝。「それを達成すれば、オリンピックを目指したい」と言う。夢への本格的な一歩が、今年、スタートする。