※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=樋口郁夫、撮影=矢吹建夫)
4大学から7選手が参加して争われた世界学生選手権(7月8~12日、ハンガリー・ペーチ)の残り2枠。ともに日体大の選手(現役1、OB1)が勝ち抜き、本大会への出場権を手にした。一人は霞ヶ浦高~日体大という王道を進んだ選手、もう一人は長い下積みを経て花開いた雑草だ。
■第一線からの引退を撤回、世界を目指す…砂川航祐
2試合を勝ち抜いた砂川航祐
霞ヶ浦高と日体大の双方で主将を務めたリーダーシップ抜群の選手がマットから降りようとしたのは、その環境を得られそうになかったことが大きい。この冬は、一般の学生からすればかなり遅い就職活動に追われた。その努力が実り、非常勤ながら高校の教員の職が見つかった。そうなると、レスリングへの思いが再び湧いてきて、再スタートとしてこのトーナメントへの出場に踏み切った。
就職活動のため練習量は不足しており、「不安は大きかった」と言う。それでも初戦で12点を獲得し、決勝も10-0のテクニカルフォール勝ち。地力を見せつけた。「返せるところはしっかり返した」と、必ずしも攻撃レスリングに徹したわけではないが、その時のコンディションによって戦法を変えられるのは、実力があればこそできること。ブランクはあったが、今後に期待できそうだ。
ただ、学生時代に比べれば練習できる時間は制限される。まして勤務する高校にはレスリング部がなく、マットワークができない日も多くなるだろう。「しっかりした気持ちがなければ、落ちる一方でしょうね。自分にムチを打って頑張っていきたい」と話し、世界学生選手権と、その前に行われる全日本選抜選手権(6月14~15日、東京・代々木競技場第2体育館)へ気持ちを向けた。
■得意の投げ技が見事に決まる…中村尚弥
雑草は男子グレコローマン71kg級の中村尚弥。1選手が棄権して3選手で争われ、シードのような形となって初戦が決勝となり、1回戦を勝ち上がってきた大学の後輩の屋比久翔平相手に第1ピリオド、8-0のテクニカルフォールで圧勝。「後輩には負けたくないので、思い切っていった。うまくいって安心しました」と安堵の表情を浮かべた。
同門対決を制した中村尚弥
本来は66kg級の選手であり、今後も同級で闘う予定。世界の71kg級で闘うには体力的にきつい面があるのは確かだが、「代表になった以上、このチャンスをものにしたい」と、筋力アップに取り組み、全力を尽くす。
和歌山・熊野高時代に全国大会での上位入賞はなく、日体大へ進んでからも、新人戦選手権でもJOC杯でもメダル争いとは無縁だった。ところが3年生の昨年夏、全日本学生選手権で2位に躍進。長い雌伏(しふく=耐えしのぶこと)を経て、やっと花開いた選手。「海外での闘いは経験ありません。強気で、びびることなく攻め、守ることのないレスリングをやりたい」と、初の国際大会へ向けて気持ちを高めた。