2014.03.18

【女子ワールドカップ・特集】48kg級から5連勝で優勝を決め、重量級でも殊勲の白星で2年ぶりの優勝

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)

吉田栄勝コーチの死を力に変えての優勝! 国別対抗戦の女子ワールドカップ最終日は3月16日、東京・小豆沢体育館で順位決定戦が行われ、日本は決勝でロシアを相手に8−0という全員勝利で勝ち、圧倒的な優勝を決めた。

 日本は48kg級の登坂絵莉(至学館大)から5番手の坂上嘉津季(至学館大)まで5連勝して一気にチームの優勝を決めた。勝負がついたあとも、69kg級の土性沙羅(至学館大)が、ロンドン・オリンピック女子72kg級金メダリストのナタリア・ボロベワから豪快な4点タックルを決めて殊勲の白星。しんがりに登場した75kg級の浜口京子(ジャパンビバレッジ)も、元世界2位のエカテリナ・ブキナに終始リードを奪って判定勝ちした。

 栄和人監督が「(決勝が)全勝で勝ったワールドカップは、私が監督をしていて初めてです。今までは、優勝しても決勝で重量級が負けたりしていた」と話すように、強豪・ロシアに一点の曇りもない優勝を飾った。

 大会の直前合宿開始の3月11日、ナショナルコーチで吉田沙保里(ALSOK)の父である吉田コーチが急逝。大会までの4日間、チームは悲しみにくれ、関係者は吉田コーチの通夜、告別式、ワールドカップの準備とあわただしかった。

 吉田はもちろん、今大会のメンバーのショックは計り知れず、メンタル面に加えて、フィジカル面でも大きな不安を残して迎えてしまった。主将の登坂は初日前夜に39度近くの発熱。だが、栄勝さんの死を日本チームはパワーに変えた。

 「吉田コーチのために、タックルで攻めて勝つ」—。これが合言葉となった日本チームは、全員が前に出る攻撃スタイルを貫いた。軽量級から中量級で一気に勝負をつけ、63kg級からは“消化試合”となったが、ここからが第2の見せ場になった。

 ロシアの柱は世界でも実績がある69kg級と75kg級だったからだ。以前はともに72kg級の選手で、どちらがオリンピックに出ても金メダルを狙える選手だ。階級区分の変更により、階級を分けて2枚看板としてエントリーしてきた。

吉田コーチが指揮する一志ジュニア教室で吉田と同様に幼少から吉田コーチに師事してきた土性は「(相手が金メダリストとはいえ)自分だけ負けるわけにはいかない」と気合を入れて、マットに上がった。

 体格は二回りほど小さい土性。第1ピリオドから果敢にタックルを繰り出だすものの、ボロベワの長い手足につぶされ、攻め切ることができない。だが、第1ピリオドで常にディフェンスに回ったボロベワのスタミナは確実に奪われていた。土性は「相手がばてていたので、攻めたらいけると思った」と第2ピリオドの終盤、豪快な持ち上げタックルで4点を奪って逆転に成功。吉田コーチの教えを生かした攻撃でロンドン・オリンピック・チャンピオンに土をつけた。

 その勢いはトリを務める浜口まで続いた。「吉田コーチが一緒に戦ってくれた。(土性までの)勢いがプレッシャーにならずに、自分の勢いになった。」と、初日は2戦2敗だった浜口が69kg級の7戦7勝の勢いのまま、4点技などを繰り出して勝った。

 これで2年ぶり7度目の優勝を決めた日本。「栄勝さんの死を乗り越えて、栄勝さんのために優勝できてよかった」と栄監督。突然の悲しみを力に変えて、吉田コーチに捧げる最高の優勝を飾った。