2014.03.05

【全自衛隊大会・特集】体育学校入隊に花を添える優勝! 限りない未来へ向けて出航…船木拓也(秋田・秋田商高卒)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

60kg級優勝の船木拓也

 1年に1度、全国の部隊から隊員が集まって行われる全自衛隊大会。体育学校レスリング班の現役選手が会場設営などの裏方に回り、レスリング班OB、一般隊員、防衛大学校の選手、在日米軍の選手などによって争われる。勝負を競う中にも、和気あいあいとしたムードが漂うが、中にはオリンピック出場を目指し、全身全霊を傾けてマットに立つ若手選手もいる。

 この4月から体育学校レスリング班に加わることが決まった選手たちだ。昨年春に高校を卒業し、一般隊員として入隊。秋から集合教育として体育学校レスリング班に加わり、合格点をもらって晴れて“プロ集団”の仲間入りを果たす。その1人、60kg級の船木拓也(秋田=秋田・秋田商高卒)は5試合をフォール、またはテクニカルフォールで勝って優勝。体育学校への正式入校に花を添えた。

■「強い選手の中で練習を」と自衛隊を選ぶ

 「自衛隊内の大会ですけど、優勝できて素直にうれしいです」。実戦のマットに上がるのは、高校3年生の秋以来、1年数ヶ月ぶり。体力は、まだ以前の状態には戻っていない。「久しぶりの試合なので、どうなるかな、という部分はありました」と話し、不安の多い中での試合だったが、総得失ポイント41-6、1試合平均1分47秒という内容は、ブランクは十分に埋まっている証明だろう。

 秋田商高時代は、全国高校選抜大会が3位、インターハイと国体はベスト8で、全国王者はなかった。敗れたのは文田健一郎(山梨・韮崎工)、藤波勇飛(三重・いなべ総合学園)、中村倫也(埼玉・花咲徳栄)という高校入学前から全国に名をとどろかせていた強豪選手。高校に入学してからレスリングを始めた選手にとっては、高い壁だった。

 しかし、「全国一がなかったのが悔やまれ、卒業後もレスリングを続けようと思いました」と闘志は消えなかった。大学からのスカウトもあったが、「強い人の中で練習して強くなりたい」と自衛隊を選んだ。一般隊員としての入隊のため、練習のブランクができることは聞かされていたが、それであっても進むだけの魅力を感じたのだろう。

グレコローマン66kg級で全日本王者に昇りつめた清水博之(滋賀・日野卒)、同55kg級で国体や全日本社会人選手権の王者に輝いている清水早伸(岐阜・岐南工卒)のように、高校時代に全国一のない選手が自衛隊で鍛えられてトップにはい上がったことを知っており、「そういう人たちの存在を励みに、がんばってみようと思いました」と言う。

 昨年10月、初めて体育学校レスリング班の練習に加わった時の感想は「弱い人がいない。すごいところに入ってしまった」。ご多分にもれず、最初は練習についていくのがやっとだったが、「やる以上は全日本チャンピオン、オリンピックの金メダルを目指す。それには、ここが最高の環境なんだ」という気持ちが、壁を少しずつ低くしてくれた。

 米満達弘というオリンピックの金メダリストがいることも、困難に向かう気持ちを強くしてくれた。米満も高校に入ってからレスリングを始めた選手。高校からのスタートが遅いとは思っていない。「練習すればするだけ強くなれるスポーツだと思います」。最近では先輩選手からポイントを取れるようにもなり、この5ヶ月間で確かな成長を感じているようだ。

■正式デビュー戦は4・26~27JOC杯

 練習は1日2回。主に午前がマットワークで、午後がトレーニング。最初は、練習の合間や夜はひたすら休むだけだったが、最近はDVDを見たりする余裕が出てきた。趣味は「ないというか、そうした時間はとれないですね」とのこと。レスリング以外の楽しみはDVD鑑賞くらいで、それ以外は当分お預けだが、「自分で望んだ道ですので、充実しています」。今は4月の入校が待ち遠しいといったところだ。

自衛隊選手としての正式なデビュー戦は、4月26~27日のJOCジュニアオリンピックカップとなる予定(60kg級)。昨年のこの大会では、入校したばかりの角雅人(佐賀・鳥栖工高卒)がグレコローマン84kg級で優勝。高校時代に全国一がない選手であっても勝てることを証明してくれた。「ぜひ続きたいです」と張り切る船木は、今年の目標に「海外で闘うこと」と「全日本選手権の表彰台」を掲げた。

 最近の自衛隊の強豪は、大学時代に好成績を残し、体育学校にスカウトされて入隊する選手が多いが、宮原厚次・元監督や元木康年コーチのように、一般隊員として入隊し、そこからオリンピック選手にはい上がった選手も少なくない。前述の清水博、清水早、角にもその可能性はあり、0からはい上がることができる世界だ。

 キッズ時代からレスリングに親しんできた同世代の選手との闘いは、これからが本当の勝負だ。困難な道ながらも、限りない未来が広がっている航海がスタートした。