2014.02.07

男子グレコローマンの全日本チームがイランから帰国

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

イランに大会出場と合宿で遠征していた男子グレコローマンの全日本チームが2月6日、成田空港着のエミレーツ航空で帰国。19日間に渡る長期遠征を打ち上げた。

 西口茂樹強化委員長(拓大職)は、ハミド・スーリヤン(ロンドン・オリンピック55kg級王者)、オミド・ノルージ(同66kg級王者)、ガセム・ラザエイ(同96kg級)のほか、66kg級元世界チャンピオンのサエイド・アブドバリ(現74kg級)らがいる合宿を「高いレベルだった」と振り返り、今やグレコローマンの世界一流国ならではの経験ができたことを強調。

 それでも、最後は「慣れたという感じがあった」そうで、59kg級の太田忍(日体大)がスーリヤンと互角近いスパーリングを展開するなど、日本選手の実力はこの期間に間違いなくアップしたと見ている。「(日本選手が)参った、手が届きません、というレベルではありません」ときっぱり。

 練習方法の違いはあったそうだ。日本なら1日1回はスパーリングを行うのが普通だが、「10日間の合宿でスパーリングをやったのは4日間だけ。ウエートトレーニング、ランニング、技術練習が中心だった」と、日本式の練習とは違う面も。そのため、日本だけで独自に練習したこともあったという。

 この時期がたまたまそうだっただけかもしれない。日本の場合、外国からチームが来たら、「せっかくだからスパーリングを多くしよう」などと気を遣うが、そうした配慮はまったくなく、あくまでも自分達の練習スタイルを崩さなかったという。このあたりは、王者の誇りか。

スクワットによる下半身の強化の重要性も感じた。1週間に2度、とことん追い込むウエートトレーニングをやっており、66kg級元世界王者のアブドバリは170kgのバーベルをかついで4回やるだけの下半身の力があるという。相手を押す力は下半身の強さによることころが大きい。「マルチサポートからトレーニングのプロが来てくれていますし、この面でも考えていきたい」と言う。

 11月下旬には、やはり世界の一流国の韓国が日本に来て合同合宿し、その練習の厳しさを経験しているが、イランは韓国的な“スパルタ練習”ではなかった。オリンピック王者のスーリヤンであっても、けっこう自由気ままにやっている面があったという。しかし、「山あり、谷ありの練習の中で、今がそういう時期なのかもしれない」とし、選手には「あれにだまされるな」と伝えたという。

 来年以降の遠征についての課題として、今回のような大会に出場してから合宿するのではなく、合宿してから大会に臨む方が効果ありそうと感じたそうだ。先に大会に出場し、その反省をもとに思い切って練習する方がいいと思っていたそうだが、試合によってけがをする選手が出るため、「まず練習を積んだ方がいいと思う」と言う。

 大会前の2日間を減量期間とすれば体重面での問題はなく、目標が後にあった方が体調の持って行き方の面でもいいと分析する。「先に試合の方がいい、と思いこんでいた。実際に行ってみて、後に合宿の方が絶対にいい」と言う。強化委員長に就任してから冬の遠征は初のこと。「選手時代の気持ちを思い出した。やってみてこそ分かる」と話し、選手にとっても、自身にとっても、収穫の多い遠征であると総括した。

■明確な目標と練習の方向性が分かった…藤村義主将

 チームの藤村義主将(自衛隊)は「実力の差は当然あり、不安な気持ちも芽生えましたが、その中で『これをやれば勝てる』という明確な目標と練習の方向性がはっきり分かり、やる気が上向きになったのも事実です。今回の練習で学んだことを体に染み込ませれば、いけると思う」と振り返った。

これまでハンガリーで合同合宿に参加したことがあるが、イランは2番手、3番手であっても世界で勝てるだけの実力を持っており、気を抜けない選手ばかり。その意味ではハンガリー合宿よりきつかったようだ。

 日本選手は「前に出る力が欠けている」という感想も持った。「引き落としても、すぐに立て直してくるのが外国選手。引き落とすより、押し合いに負けないだけのパワーをつけないとならない」と言う。自身は今回のヤデガー・イマム国際大会は非オリンピック階級の71kg級での出場だったが(2勝2敗)、「徐々にパワーをつけて体重を増やし、最終的には75kg級でオリンピックを目指すでしょう」と、パワーアップを誓った。

 大会で日本選手唯一のメダル(銅)を取った75kg級の金久保武大(ALSOK)は「試合は2試合しかしていない。運がいい銅メダルでした。1回戦は勝てる試合でした」と悔やんだ。世界ジュニア王者のアルメニア選手との一戦は、投げをくらってしまい、4-4の同点ながらビッグポイントの差で負けた内容。投げが3点から4点に変わった影響をさっそく受けてしまったわけで、「悔しいですね」と言う。

 以前から課題としていたスタンド戦については、やはり差を感じたそうだ。「もっと練習しなければなりません」と言う一方、「まだ強くなれるという感じはした」とも。銅メダル獲得とともに、価値ある遠征だったようだ。