2014.01.17

【特集】11月の日韓合同合宿で大きな収穫…男子グレコローマン66kg級・音泉秀幸(ALSOK)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

音泉秀幸(ALSOK)

 全日本選手権の男子グレコローマン66kg級は、全日本選抜選手権王者の音泉秀幸(ALSOK)が、決勝でロンドン・オリンピック60kg級銅メダルの松本隆太郎(群馬ヤクルト販売)を破って初優勝。あらためて世界へのスタートラインに立った。

 2012年に学生二冠王(全日本学生選手権、全日本大学グレコローマン選手権)のみならず、全日本選抜選手権と国体で優勝と、目覚ましい成長を遂げた選手。昨年の全日本選抜選手権で優勝して世界選手権出場まであと一歩と迫ったが、プレーオフで清水博之(自衛隊)に敗れて無念の涙をのんだ。

 今回の全日本選手権は、清水は階級を上げたためリベンジの機会はなかったものの、オリンピアンの松本を破っての文句なしの優勝。ロンドンで燃えた松本の現在のモチベーションがどのくらいかは分からないが、音泉にとっては同じ場所で練習していた「目標の先輩であり、倒さなければならない相手」。

 優勝した昨年の全日本選抜選手権は、松本が負傷で途中棄権した中での優勝だった。目標を破っての優勝に、「自信になりました」と言うのはもっともだろう。19日からは、昨年の2番手としての海外遠征ではなく、日本の第一人者として冬の海外遠征に挑む。

■世界を席巻するイランのグレコローマンで何を学ぶか

 音泉は全日本選手権で優勝できた要因のひとつを、11月下旬に日本で行われた日韓合同合宿での世界王者ほかとの練習を挙げる。「スタンドの闘い方、ステップ、体幹の入れ方など、とても参考になり、大きく変わることができまきました。あそこで学んだことを全日本選手権につなげられたことで、優勝できたのだと思います」と振り返る。

世界王者は、相手の真正面に立たず、側面から攻撃をし続けてくるのが特徴という。技の多彩さもあるが、常に自分の有利な体勢で攻めてくるそうで、「すべて真似できるわけではありませんが、スタンスや相手の横につくことなど、参考にさせてもらいました」と、収穫は大きかった。

 今度は、韓国とともに今や世界のグレコローマン界を席巻しているイランへの遠征だ。「組み手の細かさ、繊細さを磨きたい。(自分は)大技は持っていないので、どんどん前へ出て相手を崩し、テークダウンを重ねてポイントを取るレスリングを心がけ、何らかの収穫を持ち帰ります」。

 伝え聞いても、相手のすごさを本当に知ることはできない。闘うことによってのみ、収穫がある。イランでの大会出場と合宿は、韓国との合同合宿に匹敵する勉強の機会となりそうだ。

■世界への飛躍の一方、国内での地固めも重要課題

 一方で、国内での地固めも重要課題だ。清水が75kg級、または71kg級(非オリンピック階級)でやるのか、66kg級に戻ってくるのかは分からないが、「全日本合宿で練習して、若手も伸びていることを感じます」と、下からの突き上げに脅威を感じているのは事実。

全日本選手権の準決勝で勝った日体大の1年先輩の泉武志(ウィンコンサルティング)は、昨年復帰してきた選手。本格的な練習を重ねることで、「これからもっと伸びるはずです」と警戒する。王者として研究されるし、階級区分の変更によって新しい選手の参画も予想される。

 「受けて立つ、なんて気持ちはありません。だれに対しても、自分からやってやる、という気持ちです」。世界で通じる実力をつけることで、足場もしっかり固めたいところだ。

 昨年、日体大の同期の選手の中から田野倉翔太(グレコローマン55kg級)と井上貴尋(フリースタイル66kg級)の2人が世界選手権の出場を果たした。先を越され、「悔しい気持ちはありました」と言う。だが今年、世界選手権(9月、ウズベキスタン)に一番近い位置にいるのが、自分の階級が残った音泉ではないか。

 4年に1度のアジア大会(9月、韓国)という目標もある。「西口(茂樹)委員長が言われているように、メダルではなく、金メダルが目標です。取れるだけの練習をやっています」ときっぱり。不遇を乗り越えた男が、世界へ飛び立つ。