2014.01.12

【特集】階級アップに成功! 世界へ向けて再出発…男子グレコローマン85kg級・鶴巻宰(自衛隊)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

鶴巻宰(自衛隊)

 2013年全日本選手権の男子グレコローマン84kg級は、ベテランながらこの階級では“新参者”の鶴巻宰(自衛隊)が優勝。岡太一(自衛隊=2010・12年優勝)、天野雅之(中大職=2011年優勝)という“先輩”を追い抜いてトップの座にたどりついた。

 3試合で失点はなし。「予想以上にうまくいったと思います。決勝(天野戦=4-0)では1失点くらいは覚悟していましたが、うまい具合にスタンドの技が決まりました」。国体決勝での天野戦は2-1での勝利。そのあとスタンド戦を重視した練習を重ねてきており、その成果が出たといったところか。

 今月19日からはイラン遠征に参加し、国内で通じた実力を世界で試す。この階級の世界王者はイランのタレブ・ナリマン・ネマトプール。国内の闘いでも岡太一との腕力差を感じているのが現状で、世界王者の体力はもっと上であることが予想される。まして新階級は1kg上になって85kg級。「大会出場のあとは合宿もある。胸を借りて頑張りたい」と、階級を上げての本格的な国際舞台デビューに燃えている。

■1年半をかけて階級アップの課題を克服

 鶴巻は2004年12月の全日本選手権74kg級で、グレコローマンでは史上6位の若さとなる20歳6ヶ月2日で王座についた逸材。2008年北京オリンピック出場は逃したが、優勝したグルジアの選手に勝ったことがあり、次の4年間はグレコローマンのリーダーとしての活躍が期待された。実際に、2010年アジア大会では銀メダルを取るなど全日本チームを引っ張った。

しかし、2012年ロンドン・オリンピック前に腰痛などに悩まされ、予選を勝ち抜くことはできなかった。年齢的に引退も脳裏をよぎったが、「自分の力を出し切って負けたわけじゃない。悔いが残る」として、あと4年間にかける決心をした。

 74kg級としては限界に近い減量が必要なほど体は大きくなっていたが、それでも1階級アップは簡単なことではない。ロンドン・オリンピック予選を控えた2012年2月、練習の一環として「ハンガリー・グランプリ」の84kg級に出場したことがあるが、2試合とも1点も取れずに連敗。「これはダメだ(通じない)」というのが正直な感想。「押しても、押しこめない。グラウンドでも極め方が違う」と、1階級上の強豪の体力のすごさに脱帽した経験がある。

 階級アップの決断は難しかったと思われるが、減量と闘いながらの活動では同じことの繰り返しとなる可能性が高い。けが防止のために筋力トレーニングに力を入れ、十分な栄養を摂って体力をつけて臨むためにも、84kg級に活路を求め、体力アップとの闘いが始まった。

■イラン遠征では、「内容よりも、勝つことにこだわる」

 84kg級に上げて最初の国際大会が2012年11月にNYACホリデー国際大会(米国)で、見事に優勝した。しかし、グレコローマンの大会レベルとしては一段落ちる大会であり、この結果がイランや欧州に通じるものだとは思っていない。「決勝の第1ピリオドは5点も取られ、やっぱり84kg級はすごいな、という気持ちもありました」という現実にも直面した。

その後、ルールの変更があり、グラウンド・タイプの鶴巻にとってマイナスの要素も出てきた。それらを乗り越えての1年半での日本一。ただ、同門の岡太一が決勝に出てきたら、手の内を知り尽くしている相手だけに「1点を争う接戦になっていたでしょう」と、優勝が遠のいていた可能性は感じている。半年前の全日本選抜選手権では負けており、岡に勝っての日本一でないことに引っ掛かりはある。今年の世界選手権は、岡に勝っての日本代表でなければ、すっきりしまい。

 イラン遠征で85kg級のグレコローマンを肌で感じ、85kg級の真の強さを身につけたいところ。「年齢的に、『負けたけど内容はよかった』という試合は必要ない。ひきょうな形でも、情けない形でも、何よりも勝ちを狙っていく」と、一戦一戦に勝負をかける腹積もり。階級を上げて進化した鶴巻が、再び世界へ挑む-。