2013.12.13

【特集】全日本選手権へかける(2)…男子フリースタイル60kg級・有元伸悟(近大)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=樋口郁夫)

有元伸悟(近大)

 中京学院大の躍進によって東西格差の是正が進んでいる大学界。学生の個人戦では今年、同大学の選手以外に近大、関大、九州共立大の選手が2位に入賞している。東日本に対抗すべく期待の星の一人が、2年生にして西日本学生選手権を連覇し、全日本大学選手権2位と躍進した60kg級の有元伸吾(近大)。

 昨年の全日本選手権は、元大学王者と社会人オープン王者を破り、優勝した前田翔吾から1ピリオドを奪う善戦を展開して3位に入賞。今年に入って力をつけ、国体3位を経て大学2位に躍進した。2度目の全日本選手権へ向け、「今年も挑戦者の気持ちで挑みたい」と燃えている。

■西日本のハンディを乗り越え、気持ちは上向き

 躍進の兆候のある西日本学生界だが、東日本の強豪チームが全日本レベルの指導者に学び、時に全日本合宿に参加させてもらって多くの強豪と練習できるのに比べれば、ハンディがある。選手の意識がいきなり変わることもない。有元も「自分達の練習量と質でいいのだろうか、という気持ちはあります」と言う。

それでも、全日本大学選手権決勝で学生王者の鴨居正和(山梨学院大)と5-8の試合ができたことは自信になり、練習の方向性が間違っていないことを感じた。「ちょっとおごった言い方になるかもしれませんが…」と前置きしたあと、「西日本の選手でもやれる、ということを見せてやりたい、という気持ちも出てきました」と気合も入ってきた。

 練習相手の数も強さも東日本に劣っていても、「その分、自分がやらなければならないことや、やりたいことに打ち込めると考えています」と言う。練習へ臨む気持ち次第でハンディを補うだけの練習はできると思っている。

■同期の全国中学王者に遅れてしまったが…

 大阪・吹田市民教室時代に2度の全国王者の経験を持ち、2006年には1年生にして全国中学生選手権を制するなど資質は十分。同年の全国中学生王者には、森下史崇、砂川航祐(ともに現日体大)、北村公平(現早大)がいた。

 2年生の時は2位に終わったが、3年生の時にも全国王者へ。その時の王者には太田忍(現日体大)、高橋侑希(現山梨学院大)、山本康稀(現日大)といった現在の大学界の若手有望選手が名を連ねている。それらの選手と肩を並べていたわけで、“全中王者連合”でも結成して世界へ飛躍すべく逸材と言ってもいい選手だ。

「高橋侑希や太田忍らと同格という気持ちは?」という問いに、「いえいえ。タイトルも取っていないし、むしろ置いて行かれたという焦りがありますね」と、謙虚に現実を見つめる。ただ、西日本のリーグ戦や西日本インカレで勝てばいいという気持ちはきっぱり否定。「全日本レベルで勝っていきたい。全日本の舞台で前田さんとも闘える機会を得たのですから、やはり全日本王者を狙っていきたいです」と、気持ちは上を向いている。

 他階級の中学王者に遅れをとってしまった一因は、高校で転校を経験し、全国的に見て強豪とは言い難い大阪・興国高校で主に選手生活を送ったことが大きかった。最高成績が国体2位(2年時)というのは、普通の選手なら立派な成績だが、中学1年生で全国王者になった逸材としては物足りない成績。全国から強豪が集まる高校で3年間鍛えられたら、違った成績を残していたことだろう。

■伸びしろ十分で、まだ鍛え切っていない20歳

 だが有元は、「いま、こうして西日本のホープみたいに取り上げていただけるのは、興国高校でやったおかげだと思います。厳しくしごくチームでなかった分、自分で考えてやることができるようになったと思います。それが今でも役に立っています」と言う。技術は、3年生の時から指導してもらうことになった長尾武沙士コーチ(2003年インターハイ王者)の力が大きかった。近大に進んだのは長尾コーチの母校という理由が大きく、地元で花を咲かせたいという気持ちがあったからだ。

「押しつけ」や「強制」で強くなって成績を残しながら、その後伸びなかったケースは少なくない。命令されなければ何もできず、考えることのできない選手に育ってしまうからだ。あるいは、厳しすぎた反動で楽を求めてしまう。有元は、厳しすぎない環境で自主性が芽生え、伸びしろを十分に残して大学へ進んだ。今後の期待度は同期の強豪に負けないものがあるのではないか。

 今年の全日本選手権の同級は、昨年優勝で世界選手権代表の前田翔吾が負傷で欠場。全日本選抜王者の高谷大地(拓大)が階級を上げ、本命なき闘いの様相を見せている。国体3位&大学2位の有元のチャンスも大きいが、「そう考えず、1試合、1試合やっていきます。全日本日本大学選手権でも、1試合ずつ全力で闘っていったら決勝に残った、という感じでした。目の前の闘いに全力を尽くすだけです」と、優勝を意識せずに闘う腹積もりだ。

 一方で、「去年は目標だった素晴らしい舞台に立てて、とてもわくわくした。新しいことに挑むのは楽しく、わくわくするもの。決勝のという初めての舞台に立てたら、もっと楽しい気持ちになると思います」とも話す。輝く舞台を求め、西日本のホープが全日本王者へ挑む。

有元伸悟(ありもと・しんご=近大)
 1993年8月30日生まれ、20歳。大阪府出身。大阪・興國高卒。中学時代に2度の全国一へ。高校ではインターハイ3連覇の高橋侑希などの壁があって全国王者はなかったが、近大へ進み、昨年の西日本学生選手権で1年生王者へ。全日本選手権で3位に入賞。今年はアジア・ジュニア選手権に出場し、国体3位、全日本大学選手権2位などの成績を残している。165cm。