※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=樋口郁夫) ジョイフルの選手と藤川代表(左端)、藤田コーチ(右端)
それどころか、かつてレスリングの後進県と言われた四国の他の3県にも遅れをとっている状況。全国少年少女連盟に加盟しているキッズ教室の数は、香川が4、愛媛が2、高知が2であるのに対し、徳島は1クラブのみ。寂しい思いをしている関係者は少なくあるまい。
徳島で唯一のキッズ教室がジョイフルクラブ。押立杯関西少年少女選手権に6選手が参加。メダル獲得はならなかったが、レスリング王国の再建へ向け、底辺の充実に力を入れている。
■高校でレスリングができなくなり、キッズの指導を手掛ける
クラブの代表は、ロンドン・オリンピックまで全日本女子チームのスタッフを務めていた藤川健治コーチ(自衛隊)の弟・康広さん(徳島・池田高卒)。1998年にスタートした。5年前にフリースタイル62kg級で全日本王者に輝いた藤田隆和さん(国士舘大卒)がコーチとして加入し、全日本トップレベルの血が入った。 1991年全日本選手権で3年前のソウル・オリンピック代表の栄和人(現女子強化委員長)を破った藤田コーチ
週3回、高校の部活動を終わったあとの午後7時半からの練習に加わる。バレーボール部の大会参加が優先だから、チームの遠征に同行できない時も多い。いまだ全国大会には同行したことがないなど、指導者としてのハンディはある。ただ、県協会の副会長が経営している店の敷地内に専用のレスリング場があり、マットの上げ下げをする必要はないなど恵まれた練習環境で指導に力を入れている。
■試合経験の多い都会の選手に負けない闘争心を!
「高校生と違うのは、理解してもらうのに時間がかかることです。一人ひとりに合った教え方をしていかなければならないのですが、簡単にはいきません」。5年たった今でも指導方法に悩み、格闘の日々だという。大会では、「いなかの子だからでしょうか、気持ちの優しすぎる選手が多い。試合になると、攻めることのできない選手が多いんです」。 試合に負けた選手を励ます藤田コーチ
こうした指導のもとで保護者の考えも変わり、最近は遠征に出る回数も増えたそうだ。四国内の大会のみならず、大阪、鳥取などにも足を伸ばして実戦を経験。「試合を通じてこそ、勇気をもって闘っているかどうかが分かるんです。押立杯はここで勝てば全国でも勝てると言われるくらいレベルの高い大会。貴重な経験です」と、遠征のメリットを話す。
保護者の一人には、中京女大(現至学館大)時代の1997年にアジア選手権で2位入賞の実績を持つ沢田千恵さんがいる。クラブのコーチではないが、選手とスパーリングもしてくれるそうで、国際経験のある人の血も入ってきて、少しずつだがレベルが上がってきているようだ。
■王国再建に必要なキッズ・レスリングの発展
藤田コーチは全日本王者に輝いたほか、1990年代前半から中盤の国士舘大の第2期黄金時代をコーチとして支えた指導者でもある。いずれ高校レスリング界へ復帰したいという気持ちもある。「今教えている子たちが高校生になるまでずっと指導し、全国大会の団体戦で勝負するのが夢です。高校まで続けてくれるような指導を心掛けています」。 セコンドの藤川代表と、後方から選手に熱いアドバイスを送る藤田コーチ
徳島が四国の他の3県に遅れをとった要因のひとつは、キッズの振興に力を入れてきたか、そうでないかの違いに一因であるのは間違いない。まずキッズの発展が必要。まいた種が育った時が勝負だ。
「レスリングが徳島のお家芸に復活できるように頑張ります」と藤田コーチ。レスリング王国ニッポンを支えた徳島県レスリング界の奮起が望まれる。