2013.11.10

【全日本大学選手権・特集】「学生で何冠取ってもオリンピックには行けません」…66kg級・保坂健(早大)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=樋口郁夫)

66kg級優勝・保坂健(早大)

 66kg級は8月の全日本学生選手権(インカレ)に続いて保坂健(早大)が優勝。学生二冠王に輝くとともに、早大の団体優勝への希望をつなげた。

 2回戦でインカレ決勝の相手の砂川航祐(日体大)と対戦。優勝するためならどこかで倒さなければならない相手であり、「どこで闘っても同じ」という考えもあるが、必ずしもそうではない。1試合目や2試合目は体が思うように動かないのが普通で、強豪とは早いうちに闘いたくない、というのが選手の共通の心理だろう。組み合わせを見た時は「最悪、と思いました」-。

 1回戦で汗を流すことで2試合目からは自分の動きができる場合もあるが、「そうなるには(相手が)強すぎました」。組み手のうまさに対抗するのが精いっぱいで、腕はパンパン。腕の張りは後の試合にも影響したほどで、本当にきつい試合だったようだ。

 それを乗り越えられたのは、4日で8kgというきつい減量を乗り越えたこと。「くじけそうになった時、何のために減量してきたんだ。ここで負けたらもったいない、という気持ちになりまして…」。インカレの時より減量がきつかったのは「心の甘さ」のせいで、計画性に欠けた結果だ。

 反省すべきことだが、そのおかげで意地や執念が出てきてくれたことが勝因だった。チャンピオンになる選手というは、どんなことでもプラスのエネルギーに変える能力を持っている人間なのだろう。決勝は、準決勝からの時間がかなりあったので「体力が回復できました」とのこと。2点を失ったものの、納得のいくテクニカルフォール勝ちで飾った。

 インカレは無欲の勝利だった。「あー、優勝しちゃった、と自分でもびっくりでした」と言う。今回はチームの団体優勝のために、自分の優勝が義務付けられていた状況。「多少のプレッシャーはあった」と言うが、“チャンピオン”としてのプレッシャーはなし。「勝ったのはインカレ。この大会では優勝していないのですから、チャレンジャーの気持ちで闘えました」と、挑戦者になり切れたことも勝因のようだ。

 学生二冠王については、あまり意識にないという。「学生で何冠取っても、1年生で学生王者になっても、オリンピックには行けません。学生何冠とかいうのは、興味ないというか、こだわりはないんです」と、さらり言ってのけ、「全日本選手権に勝たないと意味ありません」ときっぱり。

 その全日本選手権では、ロンドン・オリンピック王者の米満達弘(自衛隊)のほか、早大の先輩の石田智嗣(警視庁)や田中幸太郎(阪神酒販)らとの対戦が待っている。学生二冠王者といえども、簡単に勝たせてもらえない大会だが、「やることは同じです。そこで勝って、やっと(オリンピックが)少し見えてくるのではないでしょうか」。組み手のほか、グラウンドの技術を磨き、全日本選手権へ挑みたいという。