※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
男子グレコローマン55kg級は、ロンドン・オリンピック代表の長谷川恒平(福一漁業)がマットに戻り、8月にはハイレベルの大会の「ピトラシンスキ国際大会」(ポーランド)で優勝。2016年リオデジャネイロ・オリンピックへ向けて、アジア選手権(インド)2位の田野倉翔太(クリナップ)との一騎打ちになるかと思われた。
ここに、田野倉より先に“ポスト長谷川”の期待を持たれていた昨年の全日本選抜選手権王者の尾形翼(ALSOK=右写真)が割って入る勢いを見せた。今月初めの東京国体で、前年王者の清水早伸(自衛隊)を破っての優勝。全日本選手権へ向けて弾みをつけた。
国体の66kg級で優勝した長谷川との差は、「まだ大きい」と感じる。田野倉や清水のみならず、学生選手の突き上げもある。しかし、「ひとつずつやっていこうと思っています。これまでは、練習でもびびりながらやっていることがあったけど、年齢的に1年、1年が勝負なので、思い切ってやることを心がけています」と、静かな闘志を燃やしている。
■昨年12月の全日本選手権は“不思議な判定”で涙をのむ
実力は、世界選手権に出場した田野倉とそん色はない。昨年12月の全日本選手権での“不思議な判定”がなければ、今年は尾形が世界選手権に出場していたかもしれない。1-0で自分がリードしたとばかり思ったシーンが、相手陣営のチャレンジの結果、0-4に変わってしまった判定だ。 東京国体で優勝し、控えめに「一番」を示した尾形
半年前に表彰台の一番高いところに立ちながら、この黒星で田野倉との立場が逆転。今年のアジア選手権の道も断たれ、飛躍の道が閉ざされた。1月下旬からの米国遠征では、ジャック・ピント・カップで4戦全勝、デーブ・シュルツ国際大会で銅メダル獲得と国際舞台でも力を発揮できる力を証明しただけに、その後、国際大会で実力発揮の場がなかったのは惜しまれよう。
もっとも、今年6月の全日本選抜選手権では準決勝で田野倉に0-2で敗れたのだから、実力不足だったことも事実。「ルールが変わって初めての大会で、どういう試合をするか形が決まっていなかった。コーションを狙って前で出ることくらしか考えていなかった」と振り返る。
新ルールは「自分に有利なルール」と考えているだけに、スタンド戦でもっと勝負をかけなければならなかった。「今は、前へ出ることよりテークダウンを取ることを目指しています」と反省する。
■6分間闘える体力が課題 打倒長谷川&田野倉を目指す“同志”でもある清水早伸とともに体力トレーニングに励む
ただ、「内容を振り返ると、いつコーションがきてもおかしくなく、警告負けとなってしまうような試合でした」とのこと。この勝利で清水との対戦成績は2勝1敗となり、一歩リードした形となったが、「いや、本当にどっちに転んでもおかしくない試合でしたので…」と繰り返し、次に闘った時には必ず勝てると思えるほどの実力差はついてないと感じている。
やらねばならないことは、まだたくさんある。12月の全日本選手権は、慣例からすれば第3シードとなるが、全日本選抜選手権で闘わなかった長谷川と同じブロックになると思われ、長谷川の壁を破らなければ決勝への道はない。そうなったら冬の遠征メンバー入りが遠のき、またもライバルが海外で実力養成に励むとのは対照的に国内で練習に打ち込まねばならない。
強化の質という点で雲泥の差となるだけに、世代交代を実現し、海外遠征でワンランク・アップを目指したい。2階級上の国体王者に挑むわけだが、東京国体では圧倒的有利を言われていた世界選手権7位の高谷惣亮(ALSOK)が、学生選手にまさかのテクニカルフォール負けを喫するなど、何が起こるか分からないのが勝負の世界。勢いを取り戻した尾形にもチャンスはあるはず。
「6分間闘える体力が課題。筋肉トレーニングといっても、単に筋力のアップだけではなく、サーキットトレーニングなどレスリングに必要な体づくりを心がけています」。グレコローマン55kg級に、今度こそ新風を吹き込む-。