※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
学生王者を破って優勝した阪部創
決勝の相手は2年前に2年生で学生二冠を制している中村隆春。今年は8月の全日本学生選手権(インカレ)で優勝し、今月の国体でも2位に入賞。学生界のみならず同級の全日本王者を争うレベルに達している選手。阪部は今年のインカレと国体で対戦し、2度とも1分30秒前後のテクニカルフォール負けしている。
そんな難敵を第1ピリオド53秒、3点技2度によるテクニカルフォールで破って優勝の殊勲。同大学・吉本収監督の「おとなしい。しゃべらないですよ」という言葉とは裏腹に、「とてもうれしいです。(中村には)インカレ、国体とも同じ負け方で負けている。ローリングの強い選手。ローリングを守れればいい勝負できると思ったし、その前にスタンドで勝負にいった」と舌は滑らかだった。
■ローリングの強い相手にスタンドで勝負
試合は阪部のもくろみ通り、阪部がまず首投げを決めて3点を先制した。出鼻をくじかれた中村だが、スイッチでバックを取り、ローリングを2度決めて5-3と逆転。ここで阪部が左まぶた周辺をカットして出血し、治療のため試合がストップした。 ローリングに2度かかり、相手のペースにはまった阪部だが、出血が救ってくれた
数分間の治療で阪部は冷静さを取り戻し、「下がったらコーションを取られ、グラウンドになってしまう。スタンドで攻撃だ」と攻めた。対する中村は勢いを取り戻すべく、阪部の突進に対抗して突進、そこに阪部の一本背負い。「狙っていた」と言う阪部の思惑通りの展開となり、中村の体が宙を浮いた。
格は中村の方がはるかに上。2試合連続テクニカルフォールで負けた相手なら、「負けてもともと」「今度はテクニカルフォールでは負けない。フルタイム闘う」などと考えてマットに上がるのが“順序”ではないか。阪部は違った。「ここでまた負けてしまっては、このまま負け続けてしまう。ここで勝って、自分の流れにもっていこうと思いました」と、学生王者に対しても「負けたくない」という気持ちで満ちあふれていた。
■自信と悔しさの両方がエネルギー
3回戦では66kg級学生王者の花山和寛(早大)と対戦し、8-1のテクニカルフォールで勝っているが、この時も「階級の下の選手に負けていてはダメだ」という気持ちだったそうだ。“学生王者”といった肩書に負けないだけの強い精神力が、殊勲の原動力だ。 一本背負いを仕掛け、この試合2度目の3点技を決めた阪部
一方、今年4月のJOC杯ジュニアでは決勝で永井凌太(拓大)にリードしながら、投げ技をかけられて屈辱の黒星。「あの悔しさがあったから…」と振り返り、自信と悔しさの両方をエネルギーにして急成長した。「次は天皇杯(全日本選手権)で優勝したい」ときっぱり言う成長株は、「まだ(トップと)差はあります。練習を頑張ることが大事だと思います」と話し、引き続きの努力を口にした。
吉本監督は「練習では、96kg級の選手とやっても(道場の)壁にぶつける気持ちの強さがある」と、精神力の強さが成長の要因と見ている。グレコローマン専門選手として育てており、練習はグレコローマンのみ。学生界の一大イベントであるリーグ戦は、出場させることはあっても結果は求めず、あくまでもグレコローマンで大成させる腹積もりだ。
指導している峯村コーチは、4年生でこの大会を制し、全日本選手権2位へ成長。階級を上げて全日本選抜王者に成長し、現在も進化を続けている。それより2年早く大学王者に輝いた阪部には、それ以上の成績が期待されるのは当然。まだ、ほんのわずかだが、神奈川大にもオリンピック選手の芽がめばえてきた。