※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
4試合に快勝し、日本21人目の世界チャンピオンに輝いた登坂
1年前の決勝戦、試合終了時点では登坂が勝っている状態で、謎のビデオ判定が行われて、判定が覆ってピリオドスコア1-2で敗れた。納得できない判定に登坂は号泣。その思いを1年間抱き、今年こそ世界女王になるために練習を積んだ。
「本当に悔しい思いをして負けた。それから世界チャンピオンになるために、いろんなことをして、うまくいかないときもありましたけど、結果につながってよかったです」とやっと安堵の表情を浮かべた。
■危なかった3回戦「旧ルールだったら負けていた」
決勝戦よりも、準決勝と3回戦がヤマ場だった。今年のアジア選手権51kg級チャンピオンのタチアナ・アマンゾル(カザフスタン=旧姓バカチュク)とは11-7と点取り合戦になった。「旧ルールだったら負けていたかも」と、攻撃が後手に回り、終盤にタックルでなんとか突き放した。準決勝のフランス戦も一時はリードを奪われるなど、危ない場面があった。
決勝前、栄和人・女子監督(至学館大教)から激を飛ばされた。「ここで負けたら、去年と同じ悔しい気持ちを味わうだけだぞ」。その言葉で再度「絶対勝つ」と気合を入れなおした。カスティーヨは実績で目立ったものはない選手だったが、女子の強豪国である中国などを下して決勝に進んできただけに、不気味な雰囲気を醸し出していた。
登坂も「中国に勝っていたし、腰もどっしりしていたので、接戦になると思った」と覚悟を決めてマットに上がったが、開始早々のワンアクションで「弱い」と確信。2度のタックルにアンクルホールドで1分も経たないうちに5-0と大量リードを奪っても手を緩めず、1分半すぎに相手のバックに回り込んであっさりと7-0とテクニカルフォール。念願の世界女王の座を手に入れた。 ブダペストに応援に来た両親とともに喜びのポーズ
■日本女子チームが渇望していた新女王の誕生
吉田沙保里や伊調馨(ともにALSOK)が不動の女王として五輪や世界選手権を連覇している日本女子レスリング。ロンドン五輪では4階級中、3階級を制し、日本の強さを証明したが、安定した力を持つ選手がいる一方で、新顔の台頭がないことが課題だった。
新世界女王は2008年の女子63kg級の西牧未央以来5年間も出なかった。栄和人女子監督にとってもそれは悩みの種でもあった。「5階級優勝を公言していたので、今日、48kg級と51kg級の2階級を優勝させれば楽かなと思っていたけど…。(宮原は敗退してしまったので)優勝を登坂に託し、それを彼女が成し遂げてくれた」と、久々の新チャンピオン誕生に感慨深そうに話した。
世界女王となった登坂にはしっかりと見えてくるものがあった。それは2016年リオデジャネイロ・オリンピックだ。「レスリングをやっている以上、オリンピックには出たい。それに向かって1日、1日しっかりとやっていきたい」。女子48kg級は五輪チャンピオンの小原日登美が引退し、世代交代が急務だった階級。その伝統を登坂が見事に引き継いだ。