2013.09.18

【世界選手権・特集】男子フリースタイル60kg級・前田翔吾(クリナップ)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

 【ブダペスト(ハンガリー)、文=池田安佑美、撮影=保高幸子】3回戦でまさかの負傷棄権-。世界選手権に4年ぶり2度目の出場となった男子フリースタイル60kg級の前田翔吾(クリナップ)は、初戦(2回戦)のエルサルバドル戦で快勝したものの、3回戦の欧州2位のウラジーミル・デュボフ(ブルガリア)戦で、5-2とリードを奪っていながら相手のエビ固めで左足を負傷。

 試合を続行しようとしたが、足に力が入らず、5-9とリードを奪われた時点で、負傷棄権となった。いい流れで試合をしていただけに「負けたという現実味がないというか、まだ実感できていない」と声を絞り出した。

 世界王者の機運が巡ってきた大会だった。2009年の初出場の世界選手権で5位となり、次世代のホープとして注目されたが、チーム事情によって戦列を離れることを余儀なくされ、ナショナルチームから脱落。その後、スランプを経験。ロンドン・オリンピックはあと一歩で逃した。

 それだけに4年ぶりの大舞台にかける気持ちは半端ではなかった。実際に調子もよく、高田裕司専務理事を含め各コーチが前田の調子のよさにメダル獲得に期待を寄せていた。

 明暗を分けたのは、ブルガリアのデュボフ戦だった。第1ピリオドの序盤に前田のタックルがポンポンと決まって得点を重ねたが、終盤に片足タックルに行ったところをつぶされて、エビ固めで返されて2失点。5-2で折り返した。第2ピリオドの前半、追加点を狙って片足タックルに行った前田だったが、第1ピリオドと同じように、左足をクラッチされて再びエビ固めを決められた。その時だった。

 「左足が抜けなくて、横にも逃がせない状況でした。そこから、ひざが曲がらない方向に行ってしまって…。けっこう音がしました。たぶんハムストリングが切れたんだと思う」。一瞬の出来事に「(現状が)理解できない状況です」とつぶやいた。

 この大会にかけていた気持ちが強かったからだろう、前田はすぐに棄権を申し出ず、左足をひきずりながらマット中央へ。試合を再開しようとするが、力が入らずにタイムを取ってしまい、1ポイント・コーション。試合を再開しても簡単にバックを取られてしまう。これまでと思ったセコンドが5-9の時点で棄権を申し入れて、試合終了となった。

 「高田専務やいろいろな方に期待してもらっていたのに、本当に申し訳ないという気持ちが強いです」。組み合わせも強豪選手が軒並み反対ブロックとなり、前田に追い風が吹いていただけに悔やまれる負傷棄権だった。